ゲームの話題で「入手困難」といえば、PS5を思い浮かべる人が多いでしょう。2020年11月12日に発売が開始されたPS5は、およそ半年が経過した今でも抽選販売が続いています。
しかし、PS5よりも入手困難なゲームに重要なものがあります。それは「ビデオカード」です。昨今のeスポーツブームもあって、PCでゲームをする人口が増えてきてますが、PCゲームにおいて重要な役割を果たすこのビデオカードが店頭から消えているのです。
仮想通貨マイニング需要が2021年初頭から加速PCゲームのパフォーマンスを決めるのは、PCの心臓部ともいえるCPUと、画面描画を担当するビデオカードの2つのパーツが重要な役割を占めます。ビデオカードを最新のものにすると、より滑らかな、より高精細な画面でプレイできるようになります。
ビデオカードにはそのスペックによって多数の種類が存在します。価格帯も数万円程度のものから高価なものだと30万円を超えるものまで。では、なぜ今ビデオカード需要が急激に増えているのでしょうか?
実は仮想通貨が関係しているのです。
ビデオカードは本来、画面の描画を担当するパーツですが、本体に搭載されているプログラム可能なシェーダーと呼ばれる機能が仮想通貨のマイニングに最適なため、仮想通貨を目当てにビデオカードを求めるユーザーが急増しているわけです。
通常用途のPCでは、1台のPCに1つのビデオカードという構成が一般的ですが、仮想通貨マイニングでは異なります。1台のPCに複数のビデオカードを搭載して、同時並行で大量の計算を行うケースがよくあります。
「計算するのはCPUじゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、ビデオカードのシェーダーには、グラフィック表現に必要な影などの計算を大量かつ高速にするために最適な設計がされており、マイニング用途にビデオカードを使用することが最も効率がいいとされてます。
このような背景から、ビデオカードの争奪戦が激化。実際、秋葉原などのPCパーツショップの店頭でもほとんど商品を見かけることはなく、特にハイエンドと呼ばれるハイスペックモデルは入荷しても即完の状況です。在庫があったとしてもプレミア価格となっており、かなり高額な価格帯を維持しています。
ネット通販などでもときおり在庫が復活することもありますが、どこから情報を聞きつけるのか、あっという間に売り切れになる状態で、ステイホームでPCでもゲームを始めたいゲーマーに行き渡らない事態になっています。
店舗側も「ビデオカードの購入は1組1つまで」などの購入規制で対策を打ってはいるものの、そもそもの入荷数が少ないこともあって、入手がかなり難しい状況が続いています。PCゲーマー視点では、PCを自作、強化したいのにパーツが入手できずにアップグレードできない状態なのです。
技術革新が早いビデオカードの世界では、旧機種の需要はあまりないのですが、今は様相が異なります。1つ前の世代の機種はもちろん、2つ前ぐらいの機種でも需要があって、フリマアプリなどでもそれなりの価格でやり取りされています。
メーカー側もドライバでマイニング規制を始めるこういった状況の中、ビデオカードメーカーのNVIDIAは同社製品用のドライバにマイニング規制をかける動きをしています。これはゲーマーに製品が行き渡るようにという意向から出てきた動きで、マイニング時の動作制限を行う仕組みを導入。
実は2021年3月からこの制限を始めたのですが、すぐにマイニング制限を回避する方法が公開された経緯がありました。しかも、パーツ本体の改造などが不要であったため、比較的容易に制限解除ができたのです。
この仮想通貨マイニングブームの影響で、最近ではHDDの品薄という事態も起こっています。仮想通貨にはビットコインを始めいくつか種類がありますが、そのうちの「Chia」という仮想通貨マイニングではHDDへの大量の書き込みが行われるため、大容量HDDを買い求める人が増えているからです。
PCゲームはインストールやアップデートに大容量なHDDが必要な場合が多々あり、こちらの影響もPCゲーマーには無視できません。ここまでPCゲームに関連するパーツが入手困難になるのはかなり珍しい事態ですので、今すぐ必要でない方以外は状況を見守ったほうがいいかもしれません。
(文・辻英之)