(※【前編】はこちらから)
VRを活用したイベント空間、会議、ゲームコンテンツなど、バーチャル空間活用の幅が広がってきています。
そんな中、元スクウェア・エニックス・グループでファイナルファンタジーXVのディレクターを務めた田畑端氏が率いるJP Gamesは、企業向けバーチャル空間構築キット「PEGASUS WORLD KIT」を提供中。
田畑氏は「DXに課題を抱える企業からの問い合わせが集まっています」と話します。同製品はなぜ開発されたのか。どんな可能性があるのか——。
開発の背景ーーPWKは『THE PEGASUS DREAM TOUR』の技術基盤が入っています。どのような経緯でPWKは生まれたのでしょうか?
田畑:当社は最初、『THE PEGASUS DREAM TOUR』を開発していたのですが、ゲームコンテンツだけで収益を見込むのは難しいとも考えていました。そこで、このゲームで培った技術やノウハウを違う切り口でビジネスにできないかと考えました。
これまで、ゲームを開発する技術はゲームのために使う、という考え方が一般的でした。しかしそうではなく、ゲームの技術を別の形で応用すれば、もっと広い未来が見えるのではないかと考えました。
実際、ショッピングモール、イベント会場、人とおしゃべりするような場所をバーチャル空間に構築するために必要な技術は、ゲーム開発技術の応用であることが多い。それなら必要なものをまとめて製品にしてしまおうと思ったんです。
ーーPWKは手軽にバーチャル空間を作るためのツールで、決済機能やゲーム機能も付いています。JP Gamesとしては、企業向け製品として売り出さないで、「バーチャル空間を企業の依頼に応じて構築する」というビジネス展開もあり得たのではないでしょうか?
田畑:確かにそういう考え方もあるでしょう。ですが、当社はオリジナルのIPを売り出すために設立した会社です。「バーチャル空間の受託開発」をしてしまうと、当社の設立趣旨から外れてしまいます。
一方で、バーチャル空間を作るためのツールを提供することは、未来に向けて貢献することでもあります。
バーチャル空間自体は今に始まったことではありませんが、これまでは技術とノウハウのある企業だけが作れるものでした。バーチャル空間を手軽に構築できるツールが提供されれば、バーチャル空間自体の価値を広めていくことができます。
さらにいうと、どんな技術もいずれは陳腐化します。バーチャル空間の構築技術もそうでしょう。なので、当社としては、その技術を囲い込む必要はないと判断しました。
DXのためのバーチャル空間ーーすでに大企業からPWKの問い合わせが来ているそうですね。
田畑:そうなんです。実は、PWKの大々的な発表は今年の後半くらいを予定していたのですが、PWKを活用して構築しているANA NEOのバーチャルトラベルプラットフォーム「SKY WHALE」(2022年リリース予定)のことを発表する際、当社のPWKを使っていることを一言プレスリリースに添えることになりました。それがきっかけで問い合わせがくるようになりました。
ーーどんな企業から問い合わせが来ているのでしょうか?
田畑:DXに課題を抱える企業ですね。みなさん自慢のブランドを持っている大企業なのですが、それをデジタルの形で生かすにはどうすればいいのか。3D化するにはどうすればいいかなど、相談を受けています。
PWKには、競合製品や類似製品と言えるものがはっきりとない状況です。それは良いことではあるのですが、逆に言えば、導入ノウハウのある企業もないということです。なので、コンサルティングや導入のサポートなどを丁寧に行い、PWKを普及させられればと考えています。
ーー競合製品、類似製品がない中で、新しい製品を売り出すことに不安や迷いはなかったのでしょうか?
田畑:あまりありませんでした。これまでの企業から消費者への情報発信は、Webサイトやスマホアプリなどが中心でした。ですが、その先はどうなるのでしょうか? 私は「その先」のひとつがバーチャル空間だと思っています。つまり、PWKは、「次世代の企業コミュニケーションのビジョン」とセットになった製品です。
そして人と人とのコミュニケーションも変化しています。今日、私はZOOMを使って遠隔でお話ししています。これも大きな変化ですが、もしかしたら少し先の取材現場では、私たちはバーチャル空間の喫茶店でアバター同士でお話ししているかもしれない。バーチャル空間は次世代のコミュニケーションの話でもあります。
ですが、バーチャルがまだまだ「これからのビジネス」だからこそ、PWKでは、いきなり導入企業数を増やすのではなく、数社程度の少ない数で丁寧に導入と運用をサポートし、しっかり定着していくようにしたいと思っています。
ゲームの未来ーーこれまでのゲームのマネタイズは、ゲームソフトの売り切り、配信と課金という形を取ってきました。しかし、PWKはバーチャル空間という経済圏構築のための技術製品という形でのビジネスです。これはゲームのマネタイズが変わってきたということでしょうか?
田畑:いえ、そうではないと思います。むしろ産業構造の変化だったり、ビジネス領域の垣根の変化だと思います。
今、VR関係のビジネスといえば、ゲーム、イベント、会議などがあり、その中心技術はやはりゲームの開発技術です。ゲームではないビジネスにゲームのテクノロジーを使うことで、サービスを提供するという流れが起きているのです。
ゲームのノウハウと技術は、ゲーム以外のビジネスも豊かにできます。JP Gamesはゲームの可能性を広げるための企業でもあります。『THE PEGASUS DREAM TOUR』も、社会貢献にゲーム技術を使ったという認識です。
既存のビジネスやサービスではあり得なかった出会いがVR技術で生まれることもあるでしょう。例えば、遠く離れているおじいちゃんおばあちゃんと孫がVR空間で会う、なんてこともあるかもしれません。
ゲームの力で何ができるのか。これから面白くなってくると思います。
(文・佐藤友理)