コロナ禍によるテレワークの増加により、オンライン会議やチャットといったツールによるコミュニケーションが一般的になりました。
しかしこれらのツールを使って円滑にコミュニケーションを取るためには、相手の都合に合わせなくてはなりません。従来のオフィスと違い相手の様子が見えないテレワークではちょっとした質問がしづらい、あるいは質問をしてもなかなか返事がこないといったことが課題となっています。
この課題解決の一手となりそうなのが、any株式会社の提供するナレッジ経営クラウド「Qast(キャスト)」。今回は同社代表取締役の吉田和史氏へのインタビューを通して、「Qast」というサービスについて解説します。
企業のナレッジを集約する社内版知恵袋「Qast」――まず御社の事業内容について教えてください。
吉田:「Qast」というナレッジ経営クラウドの運営をしています。
簡単に説明すると社内版「知恵袋」ですね。組織の中で属人化している情報や、整理されていない情報を活用して、お客様の企業課題を解決するサービスです。
――「知恵袋」と言いますと、質問に対して知識を持っている人が回答するインターネット上のサービスですよね。その社内版を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
吉田:私は前職で営業をやっていて、エンジニアに「お客様からこういう質問があったので調査してください」といった依頼をすることが何度もありました。しかしエンジニアからすると、その質問は過去に何度も回答した内容であることが多く、なかなか回答がもらえなかったり基礎知識となるところが抜けたりしていて、結局直接エンジニアに聞きに行かないと解決できなかったという経験があります。
また、マネジメントにも携わっていたのですが、部署に新しく人が入るたびに同じような質問をされて、それに対して同じような回答をして……そこに大きな課題を感じていました。
今は検索すればだいたいのことは解決できる時代ですが、社内のこととなると検索しても解決できない。この状況に違和感を覚え、解決するサービスを作りたいと思ったのがきっかけです。
――コロナ禍によってテレワークを導入する企業も増えていますが、何か質問をしたいときにチャットツールやオンライン会議ツールを使うとなると、見えない相手の都合も考慮しないといけないのでスムーズなやり取りが難しそうですね。
吉田:そうですね。例えば会社に慣れていない新人さんですと、相手の状況が見えない中で質問するというのはハードルが高いと思います。「Qast」を使えば過去に同様の質問があるかもしれないし、なければ質問を投げておけば誰かが答えてくれるので一人で悩む時間を減らせます。
テレワークで一人で仕事をしていると、ある程度の範囲は自分で解決しないと業務が進みません。「Qast」で検索可能な状態を用意しておけば、わざわざ相手に電話して質問するといった作業が回避できます。そういう背景もあり、直近一年で「Qast」に対するニーズも高まっていると実感しています。
スコアとダッシュボード機能で「Qast」活用を促進――「Qast」の画面を見ると、大きく「Q&A」と「メモ」の2つの機能がありますが、「Q&A」がいわゆる知恵袋ですよね。一方の「メモ」はブログに近い印象を受けました.
吉田:そうですね。まず「Q&A」は投稿された質問に対して回答をどんどん追加していくことができます。1つの質問に対して複数の回答ができ、「これで解決」ボタンを押す、いわゆるベストアンサーを決めることで解決済みとなり、1つの「Q&A」が完成します。
一方の「メモ」はおっしゃるとおりブログに近い投稿画面になっていて、タイトルを書いて本文を入力する形になっています。ブログのように自由に書くこともできますし、テンプレートを使うこともできるので、書くことが苦手な方でも気軽に投稿することができます。
また「メモ」にはファイルの添付ができるのですが、全てプレビュー表示ができてファイル内の文字列も検索対象になります。わざわざファイルをダウンロードして一つひとつ開いて書かれていることを検索する手間を省くことが可能です。
――シンプルながらツボを押さえた機能で、誰にでも使いやすそうですね。「Qast」の機能の中で特に差別化を意識した部分はありますか?
吉田:「スコア」と「ダッシュボード」が「Qast」独自のポイントだと思います。これは何かと言うと、ナレッジを共有した貢献度をきちんと数値化する機能です。
世の中にナレッジ管理のツールはたくさんありますし、多くの企業が導入していますが、活用しきれているかというとやや疑問があります。単にナレッジを溜める箱になってしまっているケースが多いのではないかと。
そこで「Qast」を積極的に活用してもらうためのインセンティブとして「スコア」機能、要するに投稿数や反応数に応じて点数が付く機能を用意しています。一方の「ダッシュボード」はどのナレッジがよく読まれているか、繰り返し読まれているかを一覧で見ることができる機能で、会社にとってどのナレッジが重要なのかがひと目でわかります。
この2つの機能を入れることで、そもそも投稿が活性化されない、どんなナレッジが自社にとって役立つのかわからないという課題を解消して、ナレッジを経営資源として捉えることができるようになります。
――せっかくツールを導入しても使わなければ意味がありませんから活用する工夫を入れているということですね。「Qast」を導入されたお客様からはどのような反応がありましたか?
吉田:社内で情報を探す時間を削減できたというのが大きいですね。あるデータによるとホワイトカラーの職種の人は1日あたり114分何らかの情報を探しているそうです。8時間の業務時間のうち、約1/4は人に質問したりファイルを探したりしている計算です。「Qast」でナレッジや情報を一元管理することで、情報を探す時間が一人あたり30分削減できたというお声も頂戴しています。
そもそも企業で働いている皆さんは好きで検索をしているわけではないですよね。それなのに探したいものが見つからないという状態が2時間もあるのは結構なストレスです。「Qast」を使えば、情報を探す時間の削減だけでなくストレスの軽減にも役立っていると思います。
「Qast」で浮いた時間を本来やるべき業務、例えば打ち合わせとかクリエイティブのアウトプットといった本来人間がやるべきことに時間を使えるというのは大きなメリットだと言えるでしょう。
ツールの導入からナレッジ経営の定着まで手厚くサポート――確かに資料やマニュアルが整理されてない状態はストレスになりますよね。逆にこういったものが整理されていれば、業務の属人化を防ぐこともできそうです。
吉田:まさにそのとおりで「Qast」のもう一つのメリットが属人化の解消なんです。そもそも言語化されていないものは他の人が再現することもできません。知識をメモに残しておくことで本人にとっても再現性が生まれますし、メモを見たメンバーも同じ作業ができる、作業の標準化は大きなメリットだと思います。
また、部署だけでなく組織全体で「Qast」を使えば、「社内にこんなことを知っている人がいるんだ」とか「こういう質問してみよう」といった他部署との新しいコミュニケーションが生まれやすくなりますよね。これはその会社で働く意味にもつながっていくので、従業員エンゲージメントを高める効果もあると思います。
――ちなみに「Qast」が掲げるナレッジ管理は、いわゆるファイル管理・ドキュメント管理とは違うのでしょうか?
吉田:そのファイルが誰にとって必要な情報なのか、あるいはどのページが重要なのか、そういった工夫や背景情報を含めたものをナレッジと呼んでいます。例えばPDFファイルが「情報」だとすると、そのファイルを「Qast」のメモにアップしてコメントを付けることで「ナレッジ」に昇華する、そんなイメージですね。
――ドキュメントや資料はたくさんあるけど管理しきれずに困っている、そんな企業が「Qast」を導入する場合は、一つひとつファイルをメモにアップロードしなければならないのでしょうか?
吉田:すでにお持ちのドキュメント類に関しては一括インポートできますので、事前にご相談いただければ対応が可能です。
また、当社では「Qast」導入決定後に「ナレッジ経営とは」といった基礎部分から、「どんなナレッジを蓄積するか」「具体的なスケジュール」などナレッジ経営に関するご支援をナレッジコンサルタントと呼ばれる専属チームが行っています。
ツールの導入だけでなくナレッジ経営を定着させるという意味でも手厚くサポートしていければと考えています。
――シンプルな機能で誰にでも使いやすい、さらにサポートもバッチリとなると「Qast」には隙がなさそうですね。
吉田:実はもう少し改善したい部分がありまして、「Qast」を導入されたお客様の運用担当者さんにかかる負担を減らせないか検討しています。業界にもよりますが、例えば「投稿された内容に絶対間違いがあってはならない」ということもありますよね。
「Qast」には誰もが気軽に投稿できるツールなので、内容のチェックが必要となるケースもあります。今後はこの辺りや、蓄積されたナレッジの分類等、運用担当者の負荷になる部分を自動化できればと考えています。
(文・川口裕樹)
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