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フィンランド発バーチャルスタジオZOANのCEOミッカ・ロゼンダール氏が語る「バーチャル空間の使い方」

Techable 2021年9月10日 8時0分

フィンランド発のバーチャルスタジオ、ZOAN。北欧で注目を集める同社は、首都ヘルシンキのデジタル・ツイン「バーチャル・ヘルシンキ」を創り上げました。

コロナ禍の2020年には、フィンランドで最も人気のあるラップバンド、JVGのライブをバーチャル・ヘルシンキの中で開催。ZOANでCEOを務めるMikka Rosendahl(ミッカ・ロゼンダール)氏は「バーチャル・リアリティはヘッドセットを使って遊ぶものでしたが、今ではアーティストのための空間、歴史を学ぶための空間にもなってきています」と話します。

活用範囲が広がるバーチャル空間をどう活用していけば良いのでしょうか。

首都のデジタル・ツイン「バーチャル・ヘルシンキ」

ーーZOANが創り上げた代表的な空間「バーチャル・ヘルシンキ」について詳しく伺えますか。

ロゼンダール氏:バーチャル・ヘルシンキは7年ほど前にスタートしたプロジェクトです。

一番最初のバージョンは2016年に完成し、それからずっと改良し続けています。初めは低ポリゴンのロークオリティなもので、ヘッドセットでの鑑賞には向きませんでした。しかし、不動産業界向けの活用を進める上で、グラフィックのスタイルを変え、Epic Gameが提供するゲームエンジンであるUnreal Engineを導入し、クオリティを上げていきました。

その後5年ほど前に初めてバーチャル・ヘルシンキのデモを行いました。多くの方々から高い評価を得ましたが、実際のビジネスには結びつきませんでした。このときはVRやバーチャル空間というものが登場して間もない頃だったので、なかなか理解されにくかったのかもしれません。

転機はヘルシンキ市とのコラボレーションでした。2018年、ZOANは同市とともにSlush SingaporeとSlush Tokyoに参加しました。ここではバーチャル・ヘルシンキを試したい人にもたくさん出会うことができました。ZOAN - Virtual Helsinki from Zoan on Vimeo.

2019年にはEpic GamesがUnreal Engine を使ったデザインイノベーターに授与するUnreal Awards: Experience Designという賞に選出されました。これがきっかけとなり、HP、レノボ、エヌビディアなどの企業がバーチャル・ヘルシンキを「バーチャル・リアリティで実現できる美しい空間」の例として使い始め、ここから当社の認知も広がっていきました。

これまで当社はバーチャル・ヘルシンキを通してヘルシンキ市と28のプロジェクトを行ってきました。コンサート、マーケティング素材の作成、バーチャル・イベント、リアルタイムでヘルシンキの風景を見ることができるインタラクティブポストカードなどを作ってきました。現在はバーチャル・ヘルシンキにニューヨークと東京を追加しようとしています。ヘルシンキだけでなく、他の街も作っていきたいですね。

日本に上陸

ーー2020年2月にはZOAN Japanが法人番号登録されました。日本ではどんなことをしているのでしょうか?

ロゼンダール氏:当社はコロナ禍が始まる前に日本で活動を始めました。現在はアニメや映画に関わるプロジェクトを行っています。

最近では、森記念財団都市戦略研究所と東京タイムマシンプロジェクトというものを行いました。これはバーチャル技術を用いて江戸時代、明治時代 、昭和期における東京都中央区銀座四丁目交差点を中心としたエリアを再現するものです。

元はバーチャル空間として再現した各時代の銀座をヘッドセットを使って展覧会のような形でお披露目する予定だったのですが、コロナ禍で実現できていません。現在はブラウザで楽しんでいただけます。今後、さらに再現エリアを広げていければと思います。

東京タイムマシンプロジェクトの面白いところは、みなさんが知っている街並みの古い姿を見て、現在と比べられることです。バーチャル・ヘルシンキでも古い街並みを再現したことがあります。バーチャル空間での都市の再現において、歴史的なアプローチは重要なものです。

こうしたアプローチは博物館や映画業界とのコラボレーションにも通じます。古い街並みを再現するとき、写真や絵、地図などを参考にします。そこに歴史などの専門家にサポートに入ってもらいます。専門家は私たちのプランに耳を傾けながら、「これはOK」「これは不適切」と根拠を持って教えてくれます。都市の再現に文化を理解した専門家は不可欠です。

以前、フィンランド国立博物館向けに「スヴェンスクスンドの海戦」という戦をアニメーション化しました。その中に爆発シーンがあったのですが、専門家から「弾薬は船のこの辺に貯蔵されているはずなので、こういう形では爆発することはありません」と指摘されました。こういうプロセスは重要ですね。

デジタル戦略としてのメタバース

ーーバーチャル空間やメタバース(インターネット上に構築される仮想の三次元空間)が注目を浴びています。なぜでしょうか?

ロゼンダール氏:メタバースは次のインターネットだからです。インターネットが登場した頃、多くの人は1日に10分程度インターネットを使うだけでしたが、今ではほとんど一日中何らかの形でインターネットを使っています。インターネットはもはや日常生活の一部です。メタバースも同じ道をたどるでしょう。

インターネット上の情報の形も変わってきました。インターネットが登場した頃は、webサイトといえば文字情報ばかりでした。しかし、今では画像と動画が中心です。では、その次は何か?3Dのメタバースだと私は考えています。

3D空間はかつて「ゲーム空間」と同義でした。そのため、ゲームに慣れ親しんできた若い世代にとって、メタバースの中で生活することは至って自然なことです。私たちが1日の大半をインターネットとともに過ごすようになったのと同様、私たちが1日の大半をメタバースの中で過ごす日もいずれ訪れるでしょう。

これはビジネスにとっても重要な観点です。生活者にアプローチし続けるには、既存の情報形式だけでなく、メタバースも視野に入れなければいけないからです。

ーーメタバースを戦略として考えるべき企業はどんな企業なのでしょうか?

ロゼンダール氏:ゲーム、映画、音楽、マーケティング、広告に関わる企業ですね。特に音楽においては「観客が一方的に聞く音楽」ではなく「観客が参加・反応する音楽」が重要です。

2020年の5月、コロナ禍で通常のライブを行えない中、フィンランドで人気のラップバンド、JVGのライブをバーチャル・ヘルシンキの中で開催しました。このライブでは、JVGは緑色の背景の前でパフォーマンスを行い、そこにバーチャル・ヘルシンキが映されました。また、JVGの前に観客のアバターが表示されることで、JVGは観客を感じ取ることができ、「ライブをしている感覚」も得られたと言っています。

メタバースは教育でも効果を発揮するでしょう。特に歴史教育です。歴史上の出来事をより鮮明に体験することで、歴史の理解に役立つでしょう。

また、アートやNFT、ブロックチェーンもメタバースに関わってきます。例えば、メタバースの中で美術品の店を開いて、NFTを使ってデジタルアートを販売することもできます。

都市のメタバースは誰が所有すべきなのか?

ーーメタバースの中で作品を売買した場合、その作品はメタバースに存在する作品になります。つまり、作品はメタバースという資産に従属する資産ともいえます。作品の存在がメタバースの存続に左右されるのは問題ではないでしょうか?

ロゼンダール氏:良い質問です。現在、バーチャル・ヘルシンキはZOANが所有しています。もしそこで今のような例を実現するなら、企業がメタバースを所有することが適切なのかどうかも考える必要があります。もちろん、メタバースに従属しない独立したものとして作品を販売することもあり得ます。その場合はまた別の議論になります。

バーチャル・ヘルシンキのような実在の都市のデジタル・ツインを作る場合「地方自治体がメタバースを所有したほうが良いのではいか」という問題が出てきます。

今、コロナ禍で世界的に旅行・移動が制限されています。映画を実際のロケーションで撮影できないこともあるでしょう。でも、わざわざ移動しなくても、メタバースに再現されたロケーションを使えば、移動の時間もお金も節約できます。しかし、現地のロケーションからすれば、本来得られるはずのお金を得られなくなる、ということでもあります。それなら、それぞれの土地がその土地のメタバースを作って運用すれば、収入が減ることもないのです。

そしてもう1つ問題があります。都市のメタバースの土地・建物の所有です。メタバースをわかりやすく運営するのであれば、実際の街の建物Aの持ち主Xが、メタバースの中の建物Aを所有するとわかりやすいです。ですが、持ち主Xがメタバースの中の建物Aを所有したくないのであればどうすべきでしょうか?メタバースの中の建物AをYさんが買ってもいいでしょう。でも、そうすると実際の都市とメタバースの都市の中身に乖離が生まれます。乖離をOKとするのか、しないのか。これも考えるべきことです。

企業やビジネスだけでなく、街や地方自治体という観点でも、メタバースを考えると、次なる未来が見えてくるのではないでしょうか。

(聞き手・文・佐藤友理)

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