「空飛ぶクルマ」とは、正式名称を「電動垂直離着陸型無操縦者航空機(eVTOL)」といい、電動化・完全自律の自動操縦・垂直離着陸が大きな特徴。
その実用化は、都市部でのタクシーサービスや離島・山間部などの新たな移動手段、災害時の救急搬送など、ヒトやモノの運搬の選択肢を大きく広げると言われています。
経済産業省・国土交通省によって制定されたロードマップでは、2023年度の事業開始および2030年の本格普及が掲げられ、「空の移動革命に向けた官民協議会」が発足するなど、国内でも実用化への動きが活性化しているところです。
そんななか、それぞれのアプローチで空飛ぶクルマ実用化を目指す企業の取り組みに注目が集まっています。そこで今回は、2021年にTechable(テッカブル)で取り上げた企業の取り組みをまとめてみました。
身近になる“空飛ぶクルマ”、進む機体開発国内の空飛ぶクルマ市場において、トップランナーとも言える株式会社SkyDrive。同社は、実用化に向けた機体開発はもちろん、空飛ぶクルマの認知度向上にも一役買っています。
株式会社SkyDrive同社は、2019年12月に日本初となる「空飛ぶクルマ」の有人飛行試験を実施し、2020年8月には有人試験機「SD-03」による公開飛行試験に成功しました。2021年になると、世界最大のテクノロジー見本市「CES 2021」への出展(1月)、東京スカイツリーで開催された「Society 5.0科学博」での「SD-03」のフルスケール展示(7月)など、空飛ぶクルマを一般公開しています。
機体開発においては、2021年8月に国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力し、未知の領域が多い「空力特性」の研究を開始。この研究で取得したデータをもとにプロペラの改良を重ね、エネルギー効率、静音化などの性能、安全性のさらなる向上を目指すとしています。
さらに2021年10月29日、空飛ぶクルマの型式証明申請が国土交通省に受理され、型式証明活動を開始したことを発表。型式証明とは、国土交通省が航空法に基づき、新たに開発された航空機について、その型式ごとに設計・構造・強度・性能などが所要の安全基準および環境基準に適合していることを証明するもので、その証明には強度試験や飛行試験などの各種審査が行われます。
株式会社SkyDrive(1)(2)(3)
運行に必要なシステムの開発空飛ぶクルマの実現には、機体開発はもちろん、安全に運行できるシステムも不可欠。2021年には、複数の空飛ぶクルマをリアルタイムに制御するシステムや、空飛ぶクルマ用のナビゲーションシステムの実証実験が行われました。
住友商事のQuantum Transformation Project空飛ぶクルマが数万台、数十万台飛び交うような”エアモビリティ社会”を実現するためには、複数の機体をリアルタイムに制御し、安心・安全な空の交通環境の構築が必要です。
そこで、住友商事のQuantum Transformation Project(QX PJ)は、無人機管制システムを提供するOneSky社と、量子アニーリングについて豊富な研究実績を有する東北大学と共に、多数の機体をリアルタイムに制御する量子技術実証を実施。結果、量子アニーリング技術により、同時に飛行できる空飛ぶクルマの数を従来のものより70%程度向上させ、特定の問題において10倍程度の高速化を実証したと発表しています。
QX PJ
エアモビリティ株式会社日本初となる空飛ぶクルマのナビゲーションシステム「AirNavi」を開発しているのがエアモビリティ株式会社。「AirNavi」は、ユーザーが入力した目的地に対し、気象データやバーティポート(離着陸場)情報などを加味した最適な飛行ルートを算出します。そして、最終的に設定されたルートにおけるリスクを評点化するとともに当該飛行に手配されている保険内容を提示。ユーザーは、必要に応じて最適な保険を自らキャッシュレスで購入できるといいます。
この「AirNavi」をドローンに搭載し、リアルタイムな気象情報表示、ナビゲーション機能や離着陸の動作、通信機能などを検証する実証実験が2021年12月に三重県鳥羽市で実施されました。
なお「AirNavi」は、同社が開発する空飛ぶクルマが安全に航行するためのインフラプラットフォーム「AirMobility Service Collaboration Platform(ASCP)」の主要機能のひとつ。ASCPには他にも、データ保管やデータ解析、遠隔診断などの機能が備わっています。
エアモビリティ株式会社
“空飛ぶクルマ”の販売についてまだまだ開発途中という印象の空飛ぶクルマですが、その販売に関わる動きが出始めました。
テトラ・アビエーション株式会社テトラ・アビエーションは、2021年7月に米国で開催された世界最大級の航空ショー「EAA AirVenture Oshkosh 2021」において、新機種「Mk-5」を一般公開するとともに、2022年の引き渡しを前提に40機ほどの予約販売を開始。まずは、米国でプライベートパイロットライセンスを持つ個人顧客向けに販売し、形成した顧客コミュニティと共に次世代eVTOLの開発・量産へつなげていくと発表しました。
テトラ・アビエーション株式会社
エアモビリティ株式会社先程紹介したエアモビリティ社は、2021年6月にスイスの空飛ぶクルマメーカーであるDufour Aerospace社と日本市場における代理店契約を締結。2023年より販売を開始する予定とのことです。
また、10月には米国のBartini(バルティーニ)社と独占販売契約。販売予定は2025年と発表しました。同社は、創業後すぐにイギリスVRCO社と日本における独占販売契約を締結していて、執筆時点では海外メーカー3社の販売権を獲得しています。
エアモビリティ株式会社(1)(2)
万博を控えた大阪の取り組み大阪府は、大阪での空飛ぶクルマの社会実装に向け、具体的かつ実践的な協議・活動の核となる「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル(以下、ラウンドテーブル)」を2020年11月に設立。2023年度の事業化をマイルストーンとし、2025年大阪・関西万博での“エアタクシー実現”も見据えながら、機体の機能性・安全性および社会受容性の向上に向けた取り組みを展開しています。
例えば、SkyDrive・大林組・関西電力・近鉄グループホールディングス・東京海上日動火災保険による「空飛ぶクルマによるエアタクシー事業性調査」の実施。5社それぞれの強みを生かした、生活者モニターを対象にドローンによる海上飛行実証や、空飛ぶクルマのコンセプト機体の展示、アンケート調査などを行ったようです。
また、SkyDriveと大阪府および大阪市は、2021年9月に空飛ぶクルマの実現に向けた連携協定を締結。さらに、日本航空株式会社(JAL)が大阪府の「空飛ぶクルマの実現に向けた実証実験」に採択され、大阪でヘリコプターを活用した環境調査を実施するなど、空飛ぶクルマ実現への環境を整えつつあります。
大阪の取り組み(1)(2)(3)
まとめこのように、機体やシステムの開発、自治体や企業の連携など“空飛ぶクルマ”の実現へ向け、確実に前進したと言える2021年。また、ドローン市場を牽引するTerra Drone株式会社が空飛ぶクルマ事業への本格参入を発表するなど、新たな風も吹きはじめました。事業化の目処となる2023年度への最終調整ともなる2022年には、どのような技術・サービスが誕生するのか、注目していきたいと思います。
(文・Higuchi)