あとひとつ特技を身につけるとしたら、あなたは何を選びますか?
外国語?スポーツ?プログラミング?写真や動画?
どれも素敵ですが、「継続」や「集中」を身につけてみてはいかがでしょうか?これらを「あらゆる分野に通底する汎用的な技術だ」と語るのは、bondavi株式会社・代表の戸田大介さん。
bondavi(ボンダヴィ)は、「継続する技術」など、生きていくうえで役に立つ技術を身につけるためのアプリを開発する会社です。誰もが使えるようにという理念のもとアプリを無料で公開した結果、赤字になっていることでも知られています。
今回は、戸田さんの語る「汎用的な技術」という言葉の真意を伺いながら、赤字が続くという会社の目指す方向も聞いてきました。
どんな技術にも応用できる「汎用的な技術」ーーまずは御社の事業内容を教えてください。
戸田:bondaviは、三日坊主を克服する「継続する技術」、集中力を高める「集中」、眠りを記録する「睡眠」、本や映画など好きなものを何でも記録できる「記録」などのアプリを開発しています。
会社自体は、開発担当の丸子、広報・渉外担当の松本、私の3名体制で運営していて、私は全プロダクトのデザインと、「睡眠」「集中(Android版)」以外の開発を行っています。
ーーアプリの開発を始めた経緯は?
戸田:最初はただの個人的な趣味でしたが、楽しすぎて会社にしてしまった……みたいな(笑)。
自分の作ったものに反響があって、しかもその反響がとても早いスピードで返ってくるのが、新鮮でうれしかったのだと思います。
趣味で作っていた頃は、何をやっても異性が褒めてくれる「褒め殺し」や、常にイライラさせてくる “論理マン” を論破する「論理マン」などを制作していました。
ーー論理マン……。これも10万回以上ダウンロードされていますよね。
戸田:はい。でもクソゲーですよ。
さすがにもう少し人の役に立つものを作ろうということで生まれたのが、「継続する技術」や「集中」です。
ーー役に立つためのアプリとして、なぜ抽象度の高い「継続」や「集中」にフォーカスしたのでしょうか?
戸田:できるだけ「汎用的なもの」を作りたかったのだと思います。
具体的な技術も大事ですが、どの技術も掘り下げるとその奥には必ず「どの技術にも応用できる抽象的な技術」が存在します。
「継続」という技術もそのひとつです。
たとえば、プログラミングを習熟するためには「言語の勉強」から「タイピングの上手さ」までさまざまなスキルが必要ですが、どんなスキルであっても継続しなければ身につかないですよね。
より多くの人の役に立つために、誰もが奥底に持っている汎用的な技術を伸ばすためのアプリを意識しています。
ーー汎用的な技術が備わっていれば、どんな技術でも習得できるということですよね。
戸田:そういうことですね。「人間の土台」にある部分といいますか、一過性のトレンドに左右される技術ではなく、人生の中で繰り返し発揮できる能力を伸ばすものをつくりたいと考えています。
これは「継続する技術」に限らず「集中」「記録」や行動を変えるための新しい日記アプリ「試行錯誤」などにも共通すると思います。
単純に自分自身もこういうアプリが欲しかったので、使いたいものを突き詰めて作ったら共感してくれた人が増えたということかもしれません。
開発者が語る「継続」の難しさ
ーーフラッグシップは「継続する技術」だと思いますが、制作されてみていかがでしたか?
戸田:アプリを作っていくなかで、いろいろなことがわかってきて、あらためて人にとって「継続」は難しいのだなと実感しました。
ーー「継続」のためには、具体的に何が必要だと思いますか?
戸田:継続したいことの数はひとつに絞ることと、最初に設定する目標をなるべく低くして少しずつハードルを上げていくことかなと。
「継続する技術」では、「こうすれば人は継続に失敗するのか」という学びを、その都度アプリに反映して機能を改善しています。ユーザーのデータから法則を見出して、改善できるところから改善して、一人でも多くの人が「継続」できるアプリを目指したいですね。
武器はデータを集めて人間の心理を考察する技術ーー戸田さんはもともと「データ分析」が専門なんですよね?
戸田:そうです。大学を卒業してから広告会社でデータアナリストとして働いていたのですが、そのころから「数字を見る」ことの面白さを感じていました。
ーー実際にはどのようなことを?
戸田:「データアナリスト」は、集まったデータを総合して、定性的には見えないものを定量化して人間の心理を考察する仕事、とでも言いましょうか。
たとえば、ウェブサイトの改善です。A、B、Cという3つのページがあったとしましょう。本来はユーザーがアルファベット順にサイトを回遊してCで売上(や申し込み)が発生するシナリオを描いていたのに、企業の狙いに反して実際には「Aのページを見たあと、全然違うFのページを見ている人の方が多い」ということがあります。
データーで見ればすぐにわかるので、「だったらこうしたほうが売上が伸びるかも」という仮説を立てて提案します。改善後のデータを見て、また改善して……という仕事です。
ーー御社のアプリ改善では、どのようにデータを活用しているのですか?
戸田:「継続する技術」では、9万人〜10万人のサンプル数のもと日常的にABテストを実施したり、定量データを使って「継続率」を計測したりしています。
ーー継続率をあげるためのアプリ改善とは?
戸田:たとえば、「毎日筋トレする」という目標を達成できていないユーザーがいるとします。
私たちとしては、筋トレを続けてほしいので「今日はまだ達成できていません」という通知を出していました。
それでも達成できない場合には、追加で通知を送ると達成できる人が増えるのでは?という仮説を立てていましたが、「通知がうるさい」と煙たがられてしまうリスクも伴います。そうなると、筋トレは続かず、アプリ自体の使用もやめられてしまう可能性が出てきます。
ーーアプリを開いているかどうかもデータでわかりますもんね。
戸田:はい。そこで鍵を握るのは “通知を出すタイミング” なのではないかと考え、「A. 通知を送らない」「B. 最初の通知の90分後に送る」「C. 最初の通知の120分後に送る」「D. 最初の通知の180分後に送る」という場合分けをして、約9.6万人にテストを行いました。
その結果、「B. 最初の通知の90分後に送る」が継続に対してもっとも有効であることがわかったので、90分後の通知に変更したんですよ。
……みたいな改善を行っています。
今は、「集中」など他のアプリでも、収集したデータからユーザーの心理を読み解こうとしています。数字を読んで改善する技術に長けているのが、bondaviの強みのひとつです。
bondaviのビジネスモデルは「人の役に立つ」ーー各アプリは無料ですし、広告なども表示されませんよね。どのようなキャッシュフローでマネタイズが成立しているのでしょうか?
戸田:基本的に、bondaviはアプリへの寄付で成り立っていて、会社を応援してくれる人や、使ってくれたユーザーが寄付をしてくれます。
あとは、「継続する技術」のアプリ内の応援ナビゲーションを中二病にする「どうでもいい機能」への課金が売上となっています。
ーーお互いに善意100%で成り立っていますね。
戸田:ビジネス的には間違っていると言われそうですが、広告をいれたり重要な機能に課金制限をつけたりしたくなかったんです。
理由はいくつかありますが、一番は自分が使いたいアプリ・欲しいアプリを作っているからだと思います。私は、bondaviのアプリを全部日常使いしているんですよ(笑)。
自分の快適さを妨げたくないのが一番の理由ですね。
課金制限がなければ、私のようにお金のない人や学生でも使えますから、重要な機能は誰でも使えるように、全て無料にしてます。汎用的な技術を伸ばすアプリばかりなので、経済状況にかかわらず誰もがアクセスできる環境にしたいです。
ーー今後さらに収益をあげるためには?
戸田:ユーザーファーストでひたすら改善していきます。ちょっと陳腐な精神論に聞こえるかもしれませんが、これにはデータ的な根拠もあります。
たとえば、「継続する技術」は先ほどもお伝えしたように重要な機能は全て無料ですが、30日間の継続が成功したときにアプリへ寄付してくれる人が多いことがデータでわかりました。
ーーたしかに一番うれしい瞬間ですもんね。
戸田:考えてみれば当たり前かもしれませんが、分析してようやく気付きました。
汎用的な技術習得に関して人の役に立てれば、それがそのまま収益につながる。これが今のbondaviのビジネスモデルです。不必要な広告などではなく、作ったプロダクトに対してお金が発生する仕組みは健全で尊いと思います。
ーーしかしその考えでは、たとえば世の中の全ての人が「継続」を会得したとき、「継続する技術」のマネタイズポイントは消えてしまいませんか?
戸田:そのときには、きっと十分な寄付をいただいていると思うので、おそらく問題ありません(笑)。
そうなれるように、今は「継続する技術」など、さまざまな方法で人の役に立てる会社になりたいと思います。
(文・川合裕之)