近年、宇宙開発事業が活発化し、月面開発に向けた取り組みは注目事業のひとつとなっています。月面での有人活動において不可欠なものと言えば水や食料などの物資の調達。これらの物資を月面の資源利用や物資循環で生産できるとなれば、コスト面や滞在期間中のQOL向上において大きな意味を持つといいます。
そこで株式会社大林組(以下、大林組)と株式会社TOWING(以下、TOWING)は、月の模擬砂を用いた植物栽培実験を実施。結果、小松菜の栽培に成功し、宇宙農業の新たな可能性を示しました。
月面で地産地消型の農業ができる!?同実験のポイントは、月の砂を植物栽培が可能な土壌とするための技術開発。今回は、月の模擬砂から多孔体(軽石など、内部に空洞があるもの)を設計・製造し、その多孔体を植物栽培可能な土壌へと変えることで植物栽培が可能かを検証しました。
具体的には、月の模擬砂をマイクロ波で加熱焼成して多孔体を製造。このとき、加熱温度に偏りがあれば、植物栽培に適した多孔体の製造率(回収率)が下がると言われています。そこで今回は均質に加熱できる技術を開発し、多孔体の製造率を高めることに成功しました。
この多孔体に土壌微生物を固定化し、有機質肥料を植物の吸収しやすい無機養分に分解できるようにする「土壌化」を行うことで、植物栽培ができる土壌を作ったというわけです。
注目したいのは、人間の排出物や残飯などの有機性廃棄物を循環利用し、肥料としていること。化学肥料の製造が不要になるため、高効率な植物生産による持続可能な農業を実現できるといいます。また、根菜類や大きな作物の栽培や多様な食味の再現も可能なようです。
実証を成功に導いた両社の技術今回の実験では、大林組と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同開発した、地産地消型の基地建設材料の製造技術を多孔体製造に応用。これは、月や火星などの資源にマイクロ波での加熱焼成やコールドプレスを適用することで、基地建設に利用できるブロック型の材料を製造するという技術です。
そして、TOWINGが有する無機の多孔体設計技術や有機質肥料を用いた人工土壌栽培を可能にするノウハウを組み合わせることで、見事実証に成功しました。なお、上記の人工土壌栽培を可能にするノウハウは、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構が開発した人工的に土壌化を行う技術を活用したものです。
持続可能な宇宙農業の実現へ今回の実証成功は、月面での宇宙農業実現に近づく大きな1歩となるでしょう。
月面で有人活動を行う際、水や食料などを地球から輸送するわけですが、長期的な活動においては“現地調達”が理想的。輸送コストや滞在期間中のQOL向上を考慮すると当然の結論でしょう。しかし、植物栽培のためのシステムをすべて地球から輸送するとなると、ここでもコスト面が課題となります。
このたびの実証では、月の砂をもとにした多孔体を土壌化し、宇宙空間で得られる有機性廃棄物を肥料として植物を育てられることが確認されました。これが実用化されれば、地球からの輸送に頼りきることのない持続可能な物資獲得インフラが実現するかもしれません。
PR TIMES
株式会社大林組(JAXAとの共同開発)
(文・Higuchi)