コロナ禍ですっかり一般的になりつつあるDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉。最近では、さまざまな“◯◯DX”を耳にするのではないでしょうか。
採用DXもそのひとつ。求人票作成から応募者管理、選考に至るまで、さまざまなステップが自動化されつつあります。
そんななか、HeaR株式会社は、採用面接のジャッジを自動化するスキルテストSaaS「ジョブテスト」を開発。システムが人間の何をジャッジできるのか、また、できないのか、企業が抱える採用課題を含めて同社COOの高谷匠さんにお話を伺いました。
企業が直面する“隠れた採用課題”――まずは御社の事業内容を教えてください。
高谷:HeaR株式会社は、HR領域の事業を展開しています。現在は、企業向けの「採用コンサルティング事業」と個人向けの「キャリアトレーニング事業」、そして2022年2月に正式リリースした「ジョブテスト」の3つを軸にサービスを提供しています。
――採用コンサルティング事業では、100社以上の支援実績があるそうですね。どのような悩みを持つ企業が多いのでしょうか。
高谷:「採用コスト」や「ミスマッチ」に悩む企業が多いと感じます。そのような状況に陥ってしまう理由を突き詰めていくと、“隠れた採用課題”があることに気がつきました。
――“隠れた採用課題”とは?
高谷: 採用要件が曖昧であることです。候補者のスキルの見極めが十分に行われていないと感じます。
たとえば、マーケターの採用を行っている企業があるとしましょう。
多くの場合、書類選考や一次面接は、人事部の採用担当者が対応します。しかし、その担当者はマーケターとして働いた経験がないことが多く、スキルの見極めが難しいというのが現状です。
そのため、「この候補者を現場メンバーとの面接に進めていいものだろうか」と迷いながら進めた結果、現場メンバーから「このような候補者は、一次面接でお見送りしてほしい。現場の忙しさを考えて」と言われてしまう……。そんな例を数多く見てきました。
――確かに採用要件に対する理解が曖昧な結果、起こった事態ですね。
高谷:では、現場メンバーが評価した人が必ず活躍できるかというと、そうでもありません。
たとえば、本当は求められるレベルに達していなくても、面接慣れしていたり、話し上手だったりする人は、高く評価され、採用されることがあります。
――スキルの見極めは難しいのですね。
高谷:スキルの足りない人が入社しても、なかなか活躍できない可能性があります。その結果、早期退職を選ぶ人も出てくるかもしれません。これは、企業側だけでなく、採用された人にとっても辛いことだと思います。
スキルの見極めが十分に行われないと、コストがかかるだけでなく、このようにミスマッチも引き起こしてしまいます。
最近では、新しい職種が次々と誕生していますし、働き方の多様化で雇用形態の種類が広がっていることもあり、ますます見極めが難しくなっていると感じます。
採用要件の曖昧さを解消して、組織内のスムーズな意思決定を促進したい。そんな思いで開発したのがジョブテストです。
スキル見極めを自動化する「ジョブテスト」高谷:ジョブテストは、スキルの見極めを自動化し属人化を防ぐことで、「コスト削減」と「ミスマッチ減少」を実現します。これまで弊社が採用を支援してきた100社以上のデータをもとに開発しました。
テストには、テンプレートテストとオリジナルテストの2種類があり、それぞれを組み合わせながら、求職者のスキルを見極めます。
テンプレートテストは、知識の有無やケース問題で求職者をスクリーニングすることが可能です。全70種類の中から、募集ポジションに合わせたテストを実施できます。
高谷:たとえば、マーケター採用なら「Facebook広告のピクセルタグの設定ページは以下のどれですか?」、旅行業界の求人なら「宿泊の予約や客室の管理などを一元管理するシステムを何といいますか?」など、実務経験がないと解けない問題を用意しています。
もちろん、知識や職能を確認するだけではなく、思考力や注意力、文脈把握力などのポータブルスキルのテストもそろえています。
一方のオリジナルテストは、企業独自のテストとして採用要件に合わせてカスタマイズできます。ケース問題となっているため、求職者の思考レベルを把握することが可能です。たとえば、ミッションへの共感などカルチャーフィットの確認は、オリジナルテストで見極めます。
――ジョブテストは、スキルを重視する「ジョブ型雇用」には合いそうですが、ポテンシャルを重視する新卒採用にも活用できますか。
高谷:ポータブルスキルを測るテストを多めに取り入れると、新卒採用にも活用できます。
「現在活躍中の社員にロジカルシンキングに秀でている人が多いから、新卒採用でもロジカルシンキング力を重視しよう」というような使い方が可能です。
――今後ジョブテストをどのように展開していきたいですか。
高谷:カバーする職種をもっと増やして、より多くのニーズに応えられるようにする予定です。また、自然言語処理を用いた記述回答の自動スコア化を目指していて、日本語レベルやどういったキーワードが含まれているかを見ることで、スキルを見極められるようにしたいと考えています。
採用DXが進んでも「自動化」されないもの――採用DXが進んでも、自動化されないと考えるものはありますか。
高谷:やはり人と人が一緒に働くので、対話をしないとわからないものがあると考えます。
たとえば、その企業独自の文化に馴染めるかというカルチャーフィットについて。お互いの方向性や価値観に共感できるかを大切にする、パーパス採用でも同様です。テストで確認できる範囲はあるものの、実際に話してみないとお互いに強い納得感は得られません。
弊社の場合、「青春の大人を増やす」ことをパーパスとして掲げているので、面接で候補者に「青春」についての思いをじっくり聞いたり、最終選考後に1日体験入社の機会を設けて、弊社やメンバーの雰囲気を実際に感じてもらったりしています。
お互いの思いを伝えてすり合わせる点はまだ数値化は難しく、自動化では押さえ切れないですね。
だからこそ、自動化できるものは自動化してしまおうということです。削減できた時間を候補者をより惹きつけるためのアトラクトに充てるなど、人間でなければできないことに集中できるよう、ジョブテストを活用してほしいです。
採用DXの目的は「効率化」ではない――数多くの企業の支援を行ってきた御社が考える、採用DXの成功に必要なことを教えてください。
高谷:何のために採用DXを進めるのかを改めて考えることです。
採用DXの目的は、ただITツールを導入することでもなければ、効率化して担当者が楽をすることでもありません。目的は事業を成長させること。そう考えるだけで、ものの見方が変わってくると思います。
DXは効率化することではなく、自社が成長して利益を生み出したり、社会に貢献したりするためのプロセスです。
――どこに目を向けるか、ですね。
高谷:ジョブテストの活用についても同様です。「効率的に人材を採用する」ために使うのではなく、「事業成長に寄与する人材の見極めをスマートにする」ために活用してほしいと思います。
採用活動の現場にいると、つい「目標人数を期限までに採用する」ことに集中してしまいがちですが、組織全体に目を向ければ、採用要件の解像度を上げ、より事業成長につなげることができるはずです。
結果的にミスマッチも減るので、求職者にとってもメリットがあります。
「事業戦略→組織戦略→採用戦略」と落とし込んでいく。採用DXが進むなかでは、このように事業の全体像を理解して立ち回ることができる採用担当者が一層求められるでしょうし、そのような環境を整えていくことが必要なのではないかと考えます。
(文・和泉ゆかり)