KDDIとソフトバンクが、3月下旬から「デュアルSIM」のサービスを提供します。詳細はこれからの発表になりますが、デュアルSIMといっても、端末の話ではなく、ネットワークサービスのこと。
KDDIはソフトバンクの、ソフトバンクはKDDIの回線をバックアップとして格安で提供します。
災害時にどちらかの基地局が使えなくなってしまった場合や、通信障害で交換機が機能しなくなってしまった場合の“予備回線”として、別のキャリアの回線を契約しておけるサービスです。
料金等々のスペックはまだ発表されていませんが、KDDIの高橋誠社長とソフトバンクの宮川潤一社長の発言をまとめると、オプションサービスと同レベルの月額数百円程度に収まる見通しです。
ただし、これは控えとして回線を維持しているときの料金。実際に災害なり障害なりが起こり、回線を切り替えて使うと、通話量やデータ量に応じた料金が発生するようです。こちらの具体的な金額については未定です。
KDDIとソフトバンクがこのようなサービスを投入する背景には、2022年7月に発生したKDDIの大規模通信障害があります。
期間はおよそ3日に渡り、その間、通信ができなかったり通信しづらかったりしたユーザーの合計は、音声とデータを合わせて3000万回線以上に及びました。通常の電話ができなかったのはもちろん、警察や消防などへの緊急通報にも影響が出てしまった格好です。
発端はKDDIの通信障害でしたが、このようなことは、他社でも起こりえます。事実、KDDIの翌月には、楽天モバイルでも総務省への報告が必要となる規模の通信障害が発生しました。
ドコモやソフトバンクも例外ではありません。特にネットワークが4G化し、常時接続が前提のスマホが普及して以降、こうした通信障害で受ける影響の範囲が広くなっています。小規模なものを含めれば、毎年何らかのトラブルが起こっていると見ていいでしょう。
事態を重く見た総務省は、事業者間ローミングの検討を進めています。これは、非常時に、別の会社のネットワークに接続できる仕組みのこと。ただし、発信者の電話番号通知など、今と同じような機能を実現しようとすると、ネットワークの改修に時間がかかります。
サービスとして、すぐにローンチできないというわけです。また、ローミングはあくまで交換機側が生きていることが前提。基地局に不具合が生じがちな災害時にはいい手段と言えますが、通信障害の場合、ローミングでは救済が難しいのが実情です。
こうしたケースで有効なのが、デュアルSIMです。デュアルSIMとは、1台の端末に2つのSIMカードなりeSIMなりを入れられる仕組みのこと。
音声通話を2番号で同時に待受けられることに加えて、指定した回線でデータ通信ができます。2枚のSIMカードで同時待受けできる仕様のことは、「DSDS(デュアルSIM/デュアルスタンバイ)」とも呼びます。
この端末の仕組みを生かし、あるキャリアが別のキャリアのSIMカードを提供することで、バックアップにしようというのが今回、KDDIとソフトバンクが提供するサービスの中身です。
ローミングとは異なり、回線そのものを別の会社に切り替えてしまうため、基地局側と交換機側のどちらが倒れていても、利用できるのがデュアルSIMでバックアップするメリットになります。
ただし、もう1回線契約することに変わりはないため、維持費が問題になります。
KDDIとソフトバンクは、相互に協力することで、これを数百円レベルまで抑えるといいますが、無料にはなりません。その意味で、備えを万全にしておきたい一部のユーザー向けのサービスになりそうです。
とりあえず発表にこぎつけたのはKDDIとソフトバンクですが、水面下では、ドコモとも交渉は続けているようです。NTTの島田明社長もその事実を認め、2社と「同じようなタイミングで展開できると思っている」と語っています。
やはり料金は、数百円になる見通しとのこと。大手3社のユーザーで、災害や通信障害に備えたい人は、3月下旬以降に提供されるサービスの利用を検討してみることをお勧めします。
一方で、現状ではこの枠組みに楽天モバイルが含まれていません。また、大手3キャリアから回線を借りるMVNOも、この取り組みの枠には入っていません。
こうしたキャリアを利用しているユーザーは、何らかの方法で自らバックアップ回線を用意しておく必要があります。とは言え、今は基本料0円のpovo2.0や、200円台のMVNOなど、さまざまな選択肢が用意されているため、困ることは少ないかもしれません。
備えあれば憂いないということわざどおり、これを機に、もう1回線契約してみることを検討してもいいでしょう。
(文・石野純也)