株式会社 経営者JP代表取締役社長・CEO井上和幸氏に、いま活況のエグゼクティブ採用について、日々の現場で起きていることから幹部人材市場での大きなトレンドまでを解説していただく「追跡!エグゼクティブ採用のいま&これから」。
第六回は「パーパス・ドリブン、ビジョン・ドリブンな企業」に適する幹部人材の6つの条件についてご寄稿いただきました。
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昨今、新卒採用であれ中途採用であれ、応募者から見て企業がどのような社会的テーマに基づき企業経営、事業展開をしているかが、強く問われるようになりました。
企業は「パーパス・ドリブン、ビジョン・ドリブンな企業」であることが求められているのです。
では、「パーパス・ドリブン、ビジョン・ドリブンな企業」側から見て、どのような幹部を採用すべきなのか。
この答えとして、『ビジョナリー・カンパニー』著者のジム・コリンズが彼らの膨大な調査から、主要なポストに適切な条件として6つの性格を挙げています。それでは見てみましょう。
適切な人材は会社の基本的価値観に合致しており、厳しく管理する必要がない条件①「適切な人材は会社の基本的価値観にあっている。」
条件②「適切な人材は厳しく管理する必要がない。」
まずは、ジム・コリンズが提唱する主要なポストに適切な条件①②について解説します。
条件①「適切な人材は会社の基本的価値観にあっている。」「偉大な企業はカルトのような文化を築いている」とジム・コリンズは言います。確かに特長ある企業、企業価値観がはっきりとしている企業の組織風土は、独特のものであることが非常に多いのは、皆さんもご存じの通りです。
「○○社マン」「○○社っぽい人」などと言われることがありますが、そうした企業は共通した人材のタイプ、キャラクターを持ち、それが自社の強み、DNAとなっています。
逆に、組織の価値観を共有していない人は、採用段階ではじかれますし、入社してもなじめず、早晩退職することも。
私はコンサルティングの場面で、「当社の価値観を社員に教え込むために、どのような策を取ったり制度を導入したりすればいいのですか」などと聞かれることが多いですが、それに対してジム・コリンズは、次のように言い切っています。
答えは、何もしないというものだ。自社の基本的価値観にあう性格の人を採用し、離さないようにすればいい。(ジム・コリンズ)
まさにそうだな、と思います。
価値観というものは、何かを無理に押し付けたり教え込んだりするものではありません。そもそも、日々の行動は生まれてからいまに至るまでの生活の中で育まれてきたものです。
それがそもそも共通しているのか否かは、採用段階でしっかり見極めるしかありませんし、おいそれと変わるものではないのです。
条件②「適切な人材は厳しく管理する必要がない。」もしも、社員の誰かをしっかり管理する必要があると感じた場合には、採用時に間違いを犯した可能性があるのです。
「適切な人材なら、その人の<動機付け>や<管理>に大量の時間を使う必要はない。いい意味で神経質だし、動機と規律を自分で身に着けていて、自分の能力を最大限に発揮しなければ気がすまない。それがDNAの一部になっているのである」、とジム・コリンズは解説しています。
厳しい見方をすれば、その人を自社の規律や価値観に適応させる努力を要する時点で、その人を採用したことは失敗だったのではないかということです。
適切な人材は「責任」を持ち、約束を必ず達成する条件③「適切な人材は「肩書き」を持っているのではなく「責任」を負っていることを理解している。」
条件④「適切な人材は達成すると約束したことは必ず達成する。」
続いて、ジム・コリンズが提唱する主要なポストに適切な条件③④について解説します。
条件③「適切な人材は「肩書き」を持っているのではなく「責任」を負っていることを理解している。」これは私も、本当に口を酸っぱくして、昔からいままで、あちらこちらで常に話したり原稿に書いたりしてきました。キャリアワークショップなどでも「<手段>と<目的>」「<原因>と<結果>」などの表現でも毎回お話ししています。
肩書きはあくまでも手段であり、果たすべきは自身の職務職責であるし、果たすべき職務職責を全うしたから(原因)こそ、それに応じた肩書がついてくる(結果)のです。
条件④「適切な人材は達成すると約束したことは必ず達成する。」「やるといったら、死んでもやる。」
私はリクルートで育てられ、お世話になった各部署上司から、非常に大切な価値観や規律を叩きこんでいただいたと感謝していますが、その1つは、こういうことです。
令和の時代に昭和的だと思う人もいるかもしれませんが、これだけは今後どのように時代が進んだとしても変わらないし、逆により重要になることなのではないかと思います。
規律の文化では、約束は神聖なものだと考える。人々は約束したことを実行し、不平はいわない。これは同時に、何かを達成すると約束するときに慎重を期し、約束が過大にならないよう、できないことは約束しないよう注意することも意味している。(ジム・コリンズ)
適切な人材は会社とその仕事に情熱を持っており、「窓と鏡」の成熟した思考様式を持っている条件⑤「適切な人材は会社とその仕事に情熱を持っている。」
条件⑥「適切な人材は<窓と鏡>の成熟した思考様式を持っている。」
最後に、ジム・コリンズが提唱する主要なポストに適切な条件⑤⑥について解説します。
条件⑤「適切な人材は会社とその仕事に情熱を持っている。」人は情熱がなければ何も達成できません。モチベーション、パッション、エンゲージメント。昨今、HR関連でのバズワードがこうしたワードになっているのは、最後はそこに尽きるからです。
令和は社会全体が「一億総情熱社会」になるといいなと私は願っています。
こういうことを言うと、「やる気とか情熱とかを全員に押し付けるな」と言う人は必ず少なからずいらっしゃると思います。
条件①の通り、価値観が合う集団になればいいし、合わない人は離れればいい。あくまでも、自分が輝く企業に属し自分も輝きたいという価値観である場合は、「一億総情熱社会」価値観の人がフィットする、という話です。
条件⑥「適切な人材は<窓と鏡>の成熟した思考様式を持っている。」これは少し説明が必要ですね。ジム・コリンズは次のように解説しています。
成功を収めたときは窓の外をみて、成功をもたらした要因を自分以外のところに見つけだす。成功に寄与した人たちに光をあて、自分の功績だとはほとんど考えない。だが事態が悪くなったときは、後退や失敗の責任が状況や他人にあったとは主張しない。鏡をみて、「私の責任だ」という。(ジム・コリンズ)
「成功は人のお陰、失敗は自分の責任」。道徳っぽいのですが大事ですね。しかし、そもそもの人間心理は、どちらかというと逆にできています。
行為者ー観察者バイアス:行為者として自分の行動要因を考えるときには状況の影響力も考慮する一方で、観察者として他者の行動要因を考えるときには行為者の性格や能力のような内的特性を重視しやすい傾向。要するに、自分には「環境の所為だ」など甘く。他人には「彼彼女自身の問題だ」と厳しく見がちということ。
<窓と鏡>の法則、幹部・リーダーとしては絶対に心に刻んでおきたいものです。
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ビジョナリー・カンパニーはご存知の通り、まず第一に「誰をバスに乗せるか」からスタートします。「最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」。エグゼクティブ採用において、御社は誰をバスに乗せますか?
<著者プロフィール>
井上和幸
株式会社 経営者JP
代表取締役社長・CEO
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年より現・リクルートエグゼクティブエージェントに転職、マネージングディレクターに就任。2010年2月に株式会社 経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。業界MVPを多数受賞。著書は『30代最後の転職を成功させる方法』他。「日本経済新聞」「プレジデント」「週刊ダイヤモンド」他メディア出演多数。