アフターコロナでの働き方が求められる昨今のオフィス市場。2020年頃から、フレキシブルオフィスや内装付きオフィスを移転先に選ぶ企業が増えており、特に30名規模のスタートアップ、ベンチャー企業を中心に人気があります。
フレキシブルオフィスや内装付きオフィスは、契約形態しかり空間の特徴しかり、今や多種多様なバリエーションが展開されています。一方、入居先のオフィスの特徴を押さえていない故、「入居後にメリットをあまり活かせていない」との声もちらほら耳にします。
では、どのようにオフィスを選べば失敗しないのでしょうか?
今回は、ベンチャー・スタートアップをはじめとするオフィス移転の支援から、共創を促進するワークスペースなどの場づくりや地域での取り組みもおこなっている株式会社ヒトカラメディア・ワークデザイン事業部 企画営業チームリーダー 上岡貴弓様に解説していただきます。
まずは、オフィスにどんなバリエーションや選択肢があるのかを把握していきましょう。
フレキシブルオフィス、内装付きオフィスは近年人気傾向にまず「そもそも、フレキシブルオフィスってなに?」という方のために、簡単に、フレキシブルオフィスについてご説明します。
フレキシブルオフィスとは、サテライトオフィスやレンタルオフィスなどの総称で、柔軟な利用形態で使用できるオフィスやワークスペースのことです。
内装やネットワーク工事がないため、すぐに入居し稼働することができ、退去時も現状回復が不要でクリーニングのみで退去できるため、移転/退去のコストを大幅に削減できるメリットがあります。
次に、ヒトカラメディアが仲介したオフィスの成約実績を見ていきましょう。
フレキシブルオフィスの成約実績を比較してみると、この2年間で21%増えていることがわかります。また、内装付きオフィスは2020年頃から現在まで根強い人気を保っています。対して、通常オフィス(入居に伴い内装工事が必要なオフィス)の割合が6%減っているところにも注目です。
実際に、オフィス移転の相談をいただく際の現場の会話にも変化が現れています。
コロナ禍以前では、「フレキシブルオフィスってなんですか?」という質問が多かったのに対し、最近では企業様側から「フレキシブルオフィス」や「サービスオフィス」をはじめから候補として検討していることも非常に多くなりました。
ますます多様化するフレキシブルオフィスこれらの人気に応えるように、現在では数多くのフレキシブルオフィスが登場しています。以下のグラフはその傾向をまとめたもので、フレキシブルオフィスの拠点数が年々増加していることがよくわかります。
出典:「フレキシブルオフィス市場調査2023」(ザイマックス不動産総合研究所)
しかし、一口に「フレキシブルオフィス」と言っても、オフィスによって設備面の特徴や契約形態が異なります。以下は、株式会社AnyWhere様が作成されたコワーキングスペースのカオスマップです。
このカオスマップからも読み取れるよう、オフィス市場には様々なフレキシブルオフィスのブランドが登場しており、ブランドごとに別カテゴリのオフィスと考えてもよいほど違いがあります。
出典:世界のコワーキングサービス カオスマップ 2022年5月版(株式会社AnyWhere)
今回は、ひとつの契約に対して利用できる拠点数に着目し、フレキシブルオフィスを【多拠点フレキシブルオフィス型】と【単一拠点型フレキシブルオフィス】の2タイプに分類して考えてみたいと思います(一括りにするには多少強引ではありますが、ご容赦ください)。
多拠点型と単一拠点型多拠点の利用が可能な【多拠点フレキシブルオフィス型】の場合、拠点そのものを“選べる環境”とし、ABW(Activity Based Working)志向で設計されている施設が多く見受けられます。
対して、【単一拠点型フレキシブルオフィス】は、シリーズ展開されていない独自のコンセプトや雰囲気、特徴を兼ね備えていることが施設の強みであることが多いです。加えて、オフィスの特性が変われば入居する企業も自ずとフィルタリングされ、場の雰囲気や空気感にも差が生まれます。
これらは、オフィス設備や契約形態ほどではありませんが、働く場を選ぶ指標として、ある程度考慮すべき点となります。それぞれのフレキシブルオフィスがどのような方(企業)に向いているのか、選ぶ際の判断基準などについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
徐々に盛り上がりを見せる、内装付きオフィス比較的高い品質の内装を備えていることが多いフレキシブルオフィスですが「これに相応する内装を実現しながら専有のオフィスを構えたい」という理由から、フレキシブルオフィスと並行して内装付きオフィスを検討する企業も増えています。
以下のマップは、2022年9月時点での内装付きオフィスの賃料と物件の分布を整理したものです(都内の30~60坪規模を対象)。
ここ数年の傾向として、東東京エリアに内装付きオフィスが数多く登場しました。それに伴い成約件数も顕著に伸び、渋谷や表参道エリアから東東京エリアへ移転するという事例も出てきています。
テレワークを活用したワークスタイルが普及し、東側エリアでの内装付きオフィスが増えたため、企業にとって好条件で契約しやすく人気が上がってきている、という点が理由だと考えられます。
内装付きオフィスの場合、通常オフィスで最も価格の高い銀座・丸の内エリアよりも、渋谷・恵比寿エリアの方が高価格。新宿エリアや六本木エリアは比較的リーズナブルな設定であるなど、通常オフィスとの違いも見受けられます。
内装付きオフィスの懸念としては、東京の西側エリアに数が少ないこと、需要に対して100坪を超える物件がまだまだ少ないことが挙げられますが、これらの登場は今後に期待することにしましょう。
入居準備や初期費用を削減、移転もスムーズフレキシブルオフィスと内装付きオフィス、いずれも検討する上で大きなメリットとして捉えられるのが初期費用の削減です。
基本的なオフィス機能が完備された状態で入居できるため、入居準備や解約にかかる工数と費用を最小限に抑えることが可能。
約2〜3年ごとの移転がめずらしくないスタートアップ、ベンチャー企業にとっては、入居後すぐに仕事に取りかかれる環境が整っており企業のフェーズに合わせた移転もスムーズなので、今後ますますニーズも拠点数も増加していくと考えられます。
<著者プロフィール>
上岡貴弓(うえおか・たかゆみ)
株式会社ヒトカラメディア
ワークデザイン事業部 企画営業チームリーダー
不動産領域のスタートアップでセールス、マネジメント職を経て2017年にヒトカラメディアにジョイン。企画営業職としてスタートアップ・ベンチャー企業をメインとしたオフィス移転に数多く携わる。オフィス移転をきっかけに、働く場と働き方からいきいきとした組織と個人を増やしたい。