地球上の人口増加に伴い、近年大きな課題となっている食糧危機、止まることのない環境負荷の増加、異常気象。2019年から2050年には、世界人口が77億人から97億人に増加すると言われており、最小限の水や肥料などの資源から、作物の収量最大化の重要性が増している。
しかし、世界の温室効果ガス排出量のうち、農業分野における水田、家畜、肥料などからの排出量は約12パーセントを占めるといい、環境問題に配慮しながら“異常気象の影響を受けにくい精密管理農業”を行う新しい循環が必要とされている。
こうした背景から、精密潅水システムを扱うイスラエル発のアグリテック企業ネタフィムジャパン株式会社(以下、ネタフィムジャパン)は、AI潅水施肥システムを展開する株式会社ルートレック・ネットワークス(以下、ルートレック)との協業を開始した。
日本における“精密農業”の重要性海に囲まれ国土の約67%を山林で占める日本では、豊富な水や肥沃な土地を生かし、自然環境に即した慣行農業での手法が広く浸透している。
一方で、昨今では担い手不足により1人あたりが管理する農地も増え、農業経営的な観点で考えた場合において、センシング技術や過去データを元に、数値管理によるきめ細やかな栽培管理を行う精密農業が重要視されつつある。精密農業は、作物のポテンシャルを最大限生かすことができ、高品質・多収量を実現できる点がメリットだ。
しかし初期投資費用がかかることなど、一般的な生産者にとってはハードルが高く、大規模な施設園芸(ガラスハウス・パイプハウス)や農園を展開する企業から導入が進んでいるのが現状で、国内の施設園芸面積の3%にも満たない状況*だという。
ネタフィムジャパンは今後、食糧の安定供給や農業経営の安定を図るうえでも、中小規模の施設園芸農家においてもより精密農業にチャレンジしやすい仕組みが重要だと伝えている。
*出典:農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」
環境に優しい栽培ができる“点滴潅水”ネタフィム(本社:イスラエル)の日本支社として1996年に創業したネタフィムジャパンは、日本農業の生産性向上を目指し、“点滴潅水”の普及を行ってきた。
点滴潅水とは、雨水での水やりや散水とは違い、点滴チューブというチューブの壁面に空いた穴から水と液肥を必要な分量だけ直接作物に与える潅水方法だ。国土の半分以上が砂漠であるイスラエルで開発された技術である。
水や肥料を効率的に利用でき、作物や土壌にもストレスなく環境に優しい栽培ができるというメリットがあり、世界での活用が進んでいる。
一方で雨が多く湿度も高い日本国内においては、潅水の量やタイミングが難しく、浸透スピードが遅いという課題がある。
そこでネタフィムジャパンは、誰でも簡単に点滴潅水の活用ができることを目指し、精密潅水施肥システム「ゼロアグリ」の開発からルートレックと協業するに至ったという。
AIが最適な量の肥料を供給する「ゼロアグリ」ルートレックは、AI潅水施肥システム「ゼロアグリ」やネットワーク制御機器「ルートマジック」に関連する事業を展開する国内企業。
「ゼロアグリ」とは、土壌センサーや日射情報から作物にとって最適な潅水量と施肥量をAIが算出し、最適なタイミングで実施するスマート農業システムだ。
AIが最適な量の肥料を供給するため、過剰施肥を防ぐことが可能。化学肥料による地下水汚染やCO2排出削減につながり、環境に優しい栽培を実現する。
加えて、潅水施肥の労力削減による生産者の省力化、潅水施肥の精密管理による作物の収量、品質向上も実現し、生産者の収益向上に貢献するという。
一般的なパイプハウスのような中小規模の施設園芸市場でも活用できる精密農業システムのため、既存の設備を活用した導入が可能だ。そのため初期費用を抑え、一般的な生産者への導入ハードルを低減することができる。
点滴潅水の技術・製品の普及に向けたマーケティング活動を協働今回、ネタフィムジャパンとルートレックは、地球規模での課題である食糧危機・環境負荷増大に対応する農業の実現に向け、両社の精密農業システムおよび点滴潅水の技術・製品の普及に向けたマーケティング活動を協働する契約を締結した。
今後は「点滴潅水による環境負荷低減に関するデータ・事例の発表」「両社協働でのウェビナーや動画による情報発信」「その他目的に合わせた各種マーケティング活動」を行う方針だ。
参考元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000087356.html
ネタフィム 公式サイト:https://www.netafim.jp
株式会社ルートレック・ネットワークス 公式サイト:https://www.routrek.co.jp/
(文・Haruka Isobe)