生成AI向けGPUで、米・半導体メーカーNVIDIAが市場を席捲している。NVIDIAは、“ChatGPT”で知られるOpenAIの生成AIチャットボットサービスに使用されているようなコンピューティングシステムをほぼ独占。NVIDIAのGPUの有無によって、膨大なデータセットを使って訓練し自然言語を用いてタスクを実行できる大規模言語モデル(LLM)の能力に大きな差が出る。
また、NVIDIA製品の中で最も性能が高く人気のあるGPU“H100”の性能を、さらに高めたGH200も発表。この分野において他を圧倒しており、いま世界で最も注目を集める企業ともいえるだろう。
米中対立に揺れるNVIDIA、インド企業は利を得られるかそんなNVIDIAだが、全く懸念がないわけではない。
米国は、従来より中国やその他の国へ特定のGPUなどの輸出規制を行っており、これを回避するためNVIDIAは中国向けに性能を変えたGPUを開発。LLM構築や生成AIを行う中国の大手IT企業Baidu・Tencent・ Alibaba・ Byte Danceなどに大量のGPUを販売し、その量は膨大でじつにNVIDIAの販売金額の約25%を占める。
しかし、2023年10月に米国は輸出規制をさらに厳格化することを決定。これまでNVIDIAが輸出できていたGPUも対象となり、中国企業向けの多くのGPUが販売出来なくなった。
この規制の報復として中国政府は、半導体製造に必要なガリウムとゲルマニウムの輸出を制限。米中対立は一向に収まる様子が見えない。
NVIDIAは、厳格化された規制の中でも対応できるGPUを開発しているが、その発売が延期となったことが11月24日に伝えられており、NVIDIAの驚異的な成長の減速が危ぶまれている。
インド企業との協業を加速一方、中国とは対照的にNVIDIAはインド企業との協業を加速させている。
たとえば、インド有数の大企業であるReliance Industriesは、今年9月8日にインドの多様な言語で訓練された大規模言語モデルの開発においてNVIDIAと協業することを発表。
NVIDIAの最先端のGPU GH200とAIスーパーコンピューティングサービスであるNVIDIA DGX Cloudを用いてインド独自の生成AIアプリケーションとサービスの開発を行う。
同様にTata GroupもNVIDIAとの協業を発表しており、スーパーコンピュータの構築を目指す。
またインドのL&T Tech Servicesは、11月20日、内視鏡検査に特化した医療機器向けのソフトウェアの開発でNVIDIAと協業することを発表。NVIDIAのプラットフォーム“NVIDIA Holoscan”と“NVIDIA IGX ORIN”を活用し、大腸内視鏡検査で一般的に観察される異常増殖であるポリープの検出、識別、分類のために構築されたAI/MLモデルを組み込み、画像処理能力を向上させる。
NVIDIA Holoscanは医療機器向けのプラットフォームであり、超音波、医療画像などの分析や解析をAIで行うアプリケーションをサポート。NVIDIA IGX ORINはAIをデバイスに搭載するためのセキュリティサービスなどを提供する。
このようにNVIDIAはGPUのみを販売するわけではなく、自らAIの使い方を広げられるようなプラットフォームを数多く開発し、それを顧客が活用することで需要を創出している。
米中対立の中で揺れるNVIDIAだが、インド企業との協業は中国向けの需要を補うほどの規模にまで成長できるか。その協業の行方に世界の注目が集まる。
文:はっさく(@hassakumacro)