近年、人類の宇宙進出に伴い、使用済みの人工衛星や打ち上げロケットの上段、ミッション遂行中に放出される部品などの「スペースデブリ(通称・宇宙ごみ:以下、デブリ)」が軌道上で増加している。
スペースデブリが運用中の衛星に衝突すると衛星が損傷し、衝突場所によってはミッションの継続が不可能になることも。これまでにも、デブリとの衝突事故がいくつか確認されている。たとえば、2013年にはエクアドル小型衛星NEE-01 Pegasoと旧ソ連ロケットの残骸が衝突するという事例があった。
デブリ対策が急務とされるなか、アストロスケールは2013年の創業以来、衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去、既存デブリの除去、故障機や物体の観測・点検など軌道上サービスの実現を目指し技術開発を進めてきた。
先週末、同社は商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(Active Debris Removal by Astroscale-Japan)」の打上げを予定していると発表。打ち上げ予定日は日本時間2024年2月18日(現地時間2月19日)で、場所はニュージーランドのマヒア半島にあるRocket Labの第1発射施設(Launch Complex 1)だ。
デブリへ接近し、状況を明確に調査する初の試みアストロスケールは、宇宙機の安全航行の確保を目指し、次世代へ持続可能な軌道を継承するため、全軌道における軌道上サービスに専業で取り組む民間企業。日本をはじめ、英国、米国、イスラエル、フランスとグローバルに事業を展開している。
2020年、同社は宇宙航空研究開発機構(JAXA)と民間企業が協力して大型スペースデブリ除去技術の実証を目指す「商業デブリ除去実証(CRD2)」のフェーズⅠプロジェクトを受託。そして“ADRAS-J”という実証衛星を開発した。
デブリを捕獲・除去する前には、まず対象となる物体を見つけて接近し、劣化状態や回転速度など“物体の状態”を把握するプロセスが必要となる。
ADRAS-Jのミッションは、実際のデブリへの安全な接近を行い、デブリの状況を明確に調査する世界初とされる試み。
具体的には、Rocket Labのロケット「Electron(エレクトロン)」による打上げ・軌道投入後、非協力物体である日本のロケット上段への接近・近傍運用を実証し、長期にわたり放置されたデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行う…という内容だ。
非協力物体*:接近や捕獲・ドッキングなどを実施されるための能力・機器を有さない物体
GPSデータを発信していない物体に接近できるのかADRAS-Jのミッションの難関は、対象となる物体が自身のGPSデータを発信していない非協力物体である点だ。
非協力物体は正確な位置が不明であるため、今回のミッションでは、おおよその位置を地上局からの観測データをもとに判断することになる。しかし、地上からの観測による位置情報は軌道上での観測ほど正確ではない。その限られた情報をもとに、距離を詰めていく必要がある。
そこでADRAS-Jは、ナビゲーションセンサやランデブー機能などの技術を搭載。RPO(ランデブー・近接オペレーション)や航法(ナビゲーション)に最適化したセンサ・カメラを、超長距離を含む複数の距離範囲で使用できる。
推進システム“スラスタ”のうち、相対的に位置を制御するための斜め向きのスラスタ(8本)と、効率的に大きな推力を生んで大きく軌道を変更するまっすぐなスラスタ(4本)を使い分け、ダイナミックかつ繊細な動きを可能にする。
こうした技術を活用し、ミッションでは対象デブリへの接近、定点観測・周回観測、そしてロケット上段PAF部分への最終接近実験を実施。最終的には、対象デブリ近傍から離脱して安全な軌道に移動し、ミッションを終了するという。
アストロスケールは2023年10月に東京本社からADRAS-Jの出荷を完了。現在はニュージーランドにあるRocket Labの施設にて、打上げに向けた最終準備を進めているほか、東京の拠点においても、ミッション運用に向けた確認作業を行っている。今後もADRAS-Jのミッションの動向を追っていきたい。
参考元:
PR TIMES
ADRAS-Jプレスキット
(文・Haruka Isobe)