環境への関心の高まりや健康志向など、さまざまな要因から人気急上昇中のe-bike。2010年から電動アシストシステムの展開を始めたドイツのBOSCH社が火付け役となって、まずヨーロッパで普及。車社会の米国でも大人気となっており、政府も支援制度で導入を後押し。米国の電動自転車市場規模は2022 年時点で約20億ドルと評価され、2030年までにCAGR15.6%で成長すると見込まれている。
そんな米国発のスタートアップMIHOGOがe-bike「Mihogo One」を開発。現在クラウドファンディングサイトINDIEGOGOにてプロジェクトを実施中だ。無印と「One Pro」、「One Max」の3タイプで展開されているこのモデル、時速は最大約45キロでモーターはProが750W(米国の出力規制上限)ととにかくパワフル。「スロットルオンリー」で走行するモードがあるので、日本では完全にバイク扱いになるだろう※1。
デュアルバッテリー搭載で航続距離270キロを実現Oneシリーズの最大の特徴はバッテリーを2か所に設置した「デュアルバッテリー」だ。
いわゆるママチャリである電動アシスト自転車とe-bikeの違いの一つはバッテリーの設置場所であり、前者は後輪とサドル下のパイプに、後者はダウンチューブに設置するのが一般的。ところがMihogo Oneは、この2か所両方にバッテリーを設置したのである。そのためスペックではバッテリー容量が「13Ah+16Ah」(One Maxの場合)のように2点表記される。
Tesla社のModel Xに似たテクノロジーを搭載したMihogo Oneのバッテリーはパナソニックの18650。次世代リチウムイオン電池として急速に普及しつつある半固体電池で、超大容量によって最大10年・3000サイクルの寿命を実現した。これは一般的なe-bike用バッテリーの数倍の数字である。1000サイクル後も劣化はわずか10%に抑えられるとのこと。
ただでさえパワフルなバッテリーを2か所に搭載したことで、最上位モデルのOne Maxでは1充電あたりの走行距離(航続距離)は270キロとなっている※2。海外基準のe-bikeでも長いもので航続距離200キロであることを考えると、かなりの数字だ。
突出した航続距離を実現した要因はバッテリーだけではない。トルクセンサー(ペダル踏力の検出装置)をデュアルアームにしたことで、左右両方のペダルからパワーが効率よく伝わるようになっている。この効率性によってバッテリー寿命がシングル・トルクセンサーシステム比で23%、スピードセンサーシステム比で105%も向上したとしている。
マグネシウム合金のボディにインテリジェントダッシュボードを搭載また、ボディには航空宇宙グレードのマグネシウム合金を採用。アルミニウム合金に対して剛性が78%向上した。一方で重量はアルミニウム合金比と比較すると33%、鉄と比較すると400%も軽量化されている。スペックには重量の記載がないが、充電がなくなった時のことを考えると軽ければ軽いほどよい。
ディスプレイは2.4インチのIPSパネルで約180度の超広視野角を実現。インテリジェントダッシュボードが車体システムの異常を即座に検知・表示する。
またアクセスをパスワードで保護しながらスマホでシームレスに開錠でき、安全と利便性を両立。Mihogoアプリと連動すれば車両データや現在位置などもひとめで把握できる。
ほかの特徴としては油圧ブレーキ、65Wのヘッドライト(最上位モデル)、シマノ製7段変速機、調整可能な衝撃吸収フロントフォークなどがある。
車社会の米国でe-モビリティへの移行目指すMIHOGOMIHOGOは2016年にカリフォルニア州ロサンゼルスで設立されたスタートアップ。折りたたみ式ファットタイヤ電動バイクのトップメーカーとして、急速にその地位を確立した。
世界各地からロサンゼルスに集まったエンジニアやデザイナー、e-bike愛好家からなるチームで、国際的な経歴をもとに独創的なアプローチで製品開発にあたっている。
「自動車からe-bikeまたはその他の電動モビリティへの移行」と「移動手段に対する人々の考えに革命を起こす」というビジョンを描く同社。e-bikeが人々にとって身近で魅力的なものになれば、環境と地域社会に大きな影響を与えられると考え、高額になりがちなe-bikeを手頃な価格で提供することに情熱を注いでいる。最高の品質を実現しながらサプライチェーンのコストを抑え、本来の価格の半額での販売を可能にしたという。
誰もが容易に環境に優しい交通手段に乗り換えられるデザインを心掛けるMIHOGO社。初心者から経験豊富なサイクリストまで幅広い層を対象に、通勤や街中での使用はもちろんツーリングやヒルクライムなど様々な場面で活躍する製品を送り出して米国の車社会を変革していくだろう。
ところで、eモビリティの普及で脱炭素化社会に近づくのは良いことだが、近年日本の基準を満たさない海外産e-bikeの増加が問題となっている。アシスト力の規制は各国で異なり※3、海外では自転車でも日本ではオートバイのカテゴリーになる場合があるのだ。欧米で最も基準が緩やかともいわれる米国に至っては、ペダルを漕がずに自走できるタイプが自転車扱いになることも。冒頭で述べたとおりMihogo Oneも日本ではバイク扱いとなるはずなので、日本で公道を走る際には道路交通法違反にならないよう注意されたい。
引用元:MIHOGO
Indiegogoプロジェクトページ
(文・根岸志乃)
※1:日本では人が漕がなくても走行できるフル電動自転車は電動バイク扱いとなり、自転車の枠から外れる。今月5日に「モペットはモーターを止めた状態でも自転車ではなく原付き」と法改正案で明確化されたばかり。日本で型式認可されているかどうかは、日本交通管理技術協会ホームページで確認できる。
※2:MIHOGO社は「世界最長の航続距離」と主張しているが、2017年の時点でウクライナの DELFAST社が367キロの記録を作っている。また、e-bikeではなくいわゆる“ママチャリ”の電動アシスト付き自転車分類にはあるが、Future 株式会社が航続距離1000キロの「FUTURE 1000」を 2023年11月開催の「Japan Mobility Show 2023」で公開している。
※3:日本独自の規制は「時速10キロまでの走行は人力1に対して最大アシスト力は2まで」、「時速10キロを超えたら速度上昇と共にアシスト力を抑える」、「時速24キロでアシスト力0とする」というもの。ただし欧米とは異なりモーターの出力規制は存在しない。