近年、アフリカ保険市場では参入企業が続々と登場しており、盛り上がりを見せている。グローバル市場調査会社・IMARCのレポートによると、アフリカの保険市場規模は2023年に874億米ドルに達したという。さらに2032年には1,539億米ドルに達し、2024〜2032年のCAGR(年平均成長率)は6.3%になるとIMARCは予測する。
このような急成長の主な背景としては、生産年齢人口の増加、保険文化を醸成する意識と教育の加速化、保険業界と金融機関との連携などが挙げられるとのこと。また、2019年からの新型コロナウイルスの流行も、医療保険のニーズが大きく広がったきっかけとなった。
そんなアフリカ地域において、大手保険会社に負けじと独自の革新的なサービスを推し進めるのが、2015年設立の南アフリカ発スタートアップInclusivity Solutionsだ。南アフリカのケープタウンに本社を構え、2023年時点でアフリカで8拠点を持つ。
同社はデジタルを活用し、さまざまな企業が提供する商品・サービスの中に保険を組み込み提供する、エンベデッドインシュアランス(組込型保険)を扱っている。
デジタルの力でベストフィットな保険を設計Inclusivity Solutionsのソリューションは、受賞歴のあるデジタル保険プラットフォーム「ASPin」を取り入れたもの。
同プラットフォームは外部公開されたオープンAPIでサポートされているため、保険を自社商品・サービスに組み入れたい企業は既存のデータ・サービスを連携でき、ゼロからの開発が不要となる。
これによって保険会社や販売会社は、保険サービスを各企業にとってベストフィットな形で導入・拡大し、自社で行うのに要する時間と費用のわずか何分の一かで、ビジネス目標を達成できるのだ。
同社公式LinkedIn公式ページによると、2023年時点で、同サービスの登録顧客数は250万人にも上るという。
もちろん消費者にとっても、保険付の商品・サービスを購入できるようになるのはプラスでしかなく、アフリカの消費者にとって選択の幅が広がっていることは言うまでもない。まさに三方良しの、売り手・買い手・社会全体にとってメリットをもたらすサービスと言えよう。
経験豊富、多様なバックグラウンドから成る強力な経営陣Inclusivity Solutionsを創設したのは、意外にもアフリカのルーツではないJeremy Leach氏だ。同氏は、英国バース大学の国際開発の修士号、および英国の公認会計士資格を持ち、特にマイクロ保険とデジタル保険に精通する。
Deloitte、グローバルコンサル会社BFA、NPOのFinMark Trust、保険会社Hollard Insuranceなど、数々の企業・団体において責任者として保険やモバイルマネーに関するリーダーシップを発揮し、さまざまな保険イノベーションを推進した。
また、財務大臣の要請で南アフリカの短期保険諮問委員会の委員を務めたほか、モバイル保険に特化したマイクロ保険仲介会社MicroEnsureの非常勤取締役も務める。保険や金融関係のイノベーションに関する国際会議で定期的に講演も行い、モバイル金融サービスの世界的専門家として多大な影響力を有する。
また、2021年にInclusivity Solutionsに入社し現CEOを務めるIndira Gopalakrishna氏も、インド・バンガロールのRV工学大学でコンピューターサイエンスを専攻し、インドのXLRIビジネススクールでマーケティング戦略のMBAを取得した背景を持つ。
インドとシンガポールの多国籍保険会社で10年以上勤務後、ILO(国際労働機関)にてケニアで特別研究員としてEquity Bankの保険代理店のデジタル化を支援した。その後、シンガポール大手コンサル会社ミリマンでシニアコンサルタントを務め、世界中の新興市場でマイクロインシュアランスのプロジェクトを推進した。
もちろんアフリカ出身の責任者や社員も多く所属しているが、このように、Inclusivity Solutionsはこうした保険・金融畑を世界中で長年突き進めてきたスペシャリストらによって成り立っている。それでこそ同社独自のソリューションを以てアフリカに革命をもたらしているのだろう。
アフリカの未来に向けて世界銀行が2024年1月9日に発表した報告書「Global Economic Prospects」によると、2024年の世界全体の経済成長率は2.4%の見込みで、成長率は3年連続で鈍化するとの予測だが、一方でサブサハラ・アフリカの経済成長率は2024年に3.8%、2025年に4.1%になるとの予測が出ている。
加えて、アフリカでは人口成長率も著しく、IMFのレポート「AFRTICAN CENTURY」によると、アフリカの人口は2050年に約25億人に達し、世界人口の約4分の1を占める世界最大の人口を擁する経済圏になると、2022年時点では予想されている。つまり、約25年後には地球の4人に1人がアフリカ人になるのだ。
このような経済成長と人口増加に伴い、アフリカでの保険ニーズがますます高まっていくことは明らかだ。Inclusivity Solutionsの勢いはとどまることなく、同社LinkedIn公式ページの発表によると、2024年には、ナイジェリア、セネガル、トーゴの3ヶ国で拠点を増やす計画があるという。
アフリカ保険市場のさらなる競争激化が予想される中、同社の躍進から目が離せない。
参考・引用元:
Inclusivity Solutions公式サイト
Inclusivity Solutions LinkedIn公式ページ
(文・Mika Ito)