農業と漁業は、人間が生きていくうえで欠かせない産業である。
しかし、現状は一次産業従事者の前に複雑過ぎる構造が横たわっている。特に、仲買人が何度も介入する流通過程はきわめて深刻な問題だ。これを打破することが、アジアの途上国・新興国では大きな課題となっている。
今回はフィリピンのアグリテックスタートアップMayaniを取り上げつつ、現地の一次産業はどのような課題を抱えているのか、それをどのように解決するのかを観察していきたい。
提携企業一覧には日系飲食チェーン店のロゴもMayaniは野菜、肉、魚、茶といった農産物の流通・販売を手掛けている。こうして文字にすると単純なことだが、Mayaniの特徴はやはり「最低限の流通過程で農産物を小売市場に送り届ける」という点だ。B2B、B2C販売のプラットフォームを用意すると同時に、農家から直送される農産物を販売する小売パートナーも積極的に募集している。
同社公式サイトに「さまざまなホテル、レストラン、その他の施設に農産物を提供」とあるとおり、サイトトップには提携企業一覧がある。その中には、日本の牛丼チェーン店すき家も含まれている。フィリピンのすき家1号店がオープンしたのは2021年11月。オープンから2年半しか経っていないすき家が、すでに現地のアグリテックスタートアップとの協力体制を構築しているのだ。
高品質な農産物だけでなくB級野菜の販売もフィリピン国内の14万を超える農家・漁師とのネットワークを構築し、「高品質の農産物の供給」をモットーにするMayaniだが、その一方で「B級野菜」の販売プラットフォームも設けている点にも注目したい。
B級野菜は傷がある・形が歪といった訳あり品だ。品質自体に問題は一切ないのだが、フィリピンでも形に問題があるものは最悪廃棄されてしまう。Mayaniはそうした食品ロスを避けることもミッションに掲げている。
生産地からの大量輸送網のみならず、小売店舗までのラスト数マイルの細かい輸送網を持っている点もMayaniの強みである。その日の午後3時までの発注であれば、翌日の配送に対応できるのだ。
インドの同業スタートアップが投資そんなMayaniに関して、この記事の執筆中に新たなニュースが舞い込んだ。2024年4月19日、インドで同様の流通プラットフォームを手掛けるNinjacartが、Mayaniに出資したことが発表された。出資額は明らかにされていないものの、Ninjacartはあのウォルマートが支援する期待のアグリテックスタートアップだ。農作物流通プラットフォームは、今や国境すらも跨ごうとしている。
その上で、前述の日系飲食チェーン店もMayaniのネットワークに参画している点も加味して考えてみよう。日本からやって来た飲食店は、東南アジアの市民には「ミドルクラス以上の店」として大好評を得ている。日系飲食店は高級ショッピングモールにテナントを構えるケースが多く、牛丼店もショッピングモールへ買い物に来た家族客が立ち寄る店だ。
日本の「牛丼」は東南アジアではすでに認知度が高い。「カレーライス」と「Curry」は全く別物の料理ということも、日本人は米だけでなく蕎麦を食べることも、周知の事実になっている。しかし、海外で知られている日本のメニューも、当然食材は進出先の国で仕入れなければならない。
Mayaniが生産地から直送する食材を、日系飲食店が加工・調理して消費者に提供する。悪質な中間業者を一切介在させない仕組みの構築は、もはや外資にとっての義務と言えるだろう。
参照:Mayani
(文・澤田 真一)