新聞各社が主催する企業表彰事業は、公共性の高い企業を表彰することで今現在の世界を悩ませる問題の解決につなげようというコンセプトで行われるものだ。
日本経済新聞が主宰する「日経アジアアワード」は、1996年から実施されていた「日経アジア賞」に代わる事業として2021年に創設された。対象はビジネス、調査・研究、技術開発、社会・芸術活動などの「アジアのイノベーション」。昨年12月に第3回日経アジアアワードを受賞したのは、インドネシアのスタートアップEvermosだった。
Evermosは、事業者の生活を第一に考えたECプラットフォームを運営している。取り扱うのは主に「ハラル・イスラムフレンドリー製品」および「UMKMを経由した地元ブランド製品」の2つである。
ハラル製品を積極的に販売国民の9割近くがイスラム教徒というインドネシアでは、あらゆる場面でハラルやイスラムフレンドリーが求められる。コンビニエンスストアでは豚肉の缶詰も売られているが、必ず「ハラム(イスラム教の禁忌)専用棚」に置かれる。
10年前、日本の菓子メーカーの製品がインドネシアで騒動になったことがある。豚由来の成分を使用しているにもかかわらず、インドネシア語に翻訳された成分表がなかったためだった。このように、インドネシアでは生活のあらゆる場面で戒律が根付いているのだ。
Evermosはイスラム教徒に寄り添った製品、すなわちハラル認証取得製品やイスラム教の戒律に触れない原料を用いた製品を積極的に販売する。シャリアビジネスのエコシステムの育成を使命に掲げる同社は、2024年2月にはInternet Marketers Nahdlatul Ulama (IMNU)コミュニティ(Nahdlatul Ulamaはインドネシアのイスラム組織)との戦略的パートナーシップも結んだ。
プラットフォーム利用事業者の7割が女性リセラーしかし、Evermosは単なる「イスラム教徒向けECプラットフォーム」ではない。同社の場合は「UMKMの製品を強く押し出す」という特徴も有している。
UMKMとは「Usaha Mikro, Kecil dan Menengah」の略語で、日本語に訳すと「中小零細事業者」である。MSMEsと同様の意味だ。このUMKMの成長が、国の実体経済に大きく影響することは想像に難くないだろう。
Evermosは全国のUMKMをリセラーとして取り込むことで、大手ECとは一線を画すラインナップを実現している。現時点では8万点以上の商品、750以上のローカルブランドを取り扱っている同社だが、これは地方の女性に雇用を与えるという効果ももたらしている。500以上の都市に散らばる16万人以上のEvermosリセラーは、その7割以上が女性なのだ。
ジャカルタ、スラバヤといった大都市はともかく、農村部や地方島嶼部の女性は雇用に恵まれているとは言えない。
インドネシアは地域間格差が非常に大きく、地方にいる限りは男女問わず仕事に恵まれないということがよくある。そのような境遇にある人々の選択肢は、大都市へ出稼ぎに行くか行商人になるかというのが実情だった。
しかし、インターネットの普及がその状況を大きく変えようとしている。
「地方の空洞化」を防ぎ、地域間格差の解消を目指してインドネシアは火山島の集合体だ。それぞれの島の中央に険しい山脈が走っているため、都市間の移動に難儀する。
人やモノの移動の困難さがネックになり、「地元に居を構えながら他の都市にもリーチする」という形のビジネスがなかなか発展しないのが現状である。これを放置すると、いずれは「地方の空洞化」を招いてしまう。若者が大都市へ移住してしまった結果、農村部に働き手がいなくなる現象だ。
地方の事業者が積極的にECを利用すればいいのだが、じつはそれにも困難がある。大手ECの場合はどうしても外資大企業・有名ブランド偏重になり、国内のUMKMの出品は埋没してしまいやすいからだ。
つまり、コンセプトの段階から「UMKMの製品を積極的に販売する」と設計されたEvermosのようなECがインドネシアには必要不可欠なのだ。同社は社会活動として女性や中小企業・地域社会、社会経済的に困難のある層のエンパワメントに取り組んでいる。
同社は昨年、日経アジアアワードの他に「Asia Sustainability Reporting Awards (ASRA)のファーストタイム部門で銅賞を受賞。国際的な注目を集めるEvermosが、アジアの個人ビジネスの在り方を変える日はすぐそこまで来ている。
参照・参考:
Evermos
日経アジアアワード
(文・澤田 真一)