人類は有史以来、「いかにして品質を保ちながら農業を効率化するか」ということに並々ならぬ労力を費やし、試行錯誤を重ねてきた。品種改良、農機具の開発、農薬。それらを駆使して農作物の収穫量を増やしてきたのが人類の歴史と言えよう。
そして現代、マレーシアのアグリテックスタートアップQarbotechが極めて画期的な成長促進剤を開発している。植物の光合成効率を増進させ、より多くの収穫を目指すというコンセプトの製品だ。
光合成のペースと成長度を3割促進たとえ同じ国でも、地域によって気象条件が異なるということはよくある。
植物である野菜や果物は光合成によって成長するもの。1年の日照時間が少ない地域では、ビニールハウスを設けない限り作物の収穫量や成長度合いで不利を強いられてしまう。
Qarbotechが開発した光合成促進剤「QarboGrow」は、クロロフィルと同じ働きを有する有機化合物を使用したもの。この製品を用いれば光合成のペースを30%早めることができ、結果的に作物の成長周期が25%短縮され、成長自体も30%増加する。なんとパイナップルの甘みも20%増すとのこと。
SYNCの記事によると、QarboGrowを使えば農作物の収穫量が最大60%増加するという。現時点では顕著な実績はないようだが、この数字がまとまった形で実証された暁には農業分野に絶大なインパクトを与えるだろう。
限られた土地での効率的な農業は国際的な課題世界経済フォーラムやMcKinsey & Companyなどによると、東南アジアの人口は2020年の6億7,000万人から2035年には7億5,000万人に増える見込みだ。
人口が増えてもそれに応じて土地が増えるわけではない。戦国時代や植民地時代であれば領土自体を大きく広げるというところかもしれないが、今は21世紀だ。となると、今現在活用されている農地の収穫をいかに効率化するかが重要となる。
近い将来、国民を支える食料をどのように確保するか。労働人口が低下している日本も他人事ではないのだが、人口増加が著しい東南アジア諸国ではより深刻に受け止められている。当地で様々なアグリテックスタートアップが発足しているのは、そうした背景の影響が大きい。
また、ロシアによるウクライナ侵攻以来、化学肥料の価格が高騰。世界各国の農家を悩ませている。収穫を効率化しなければならないのに、化学肥料の大量投入はコストの問題からできないー。食料自体の価格も高止まりしている状況だ。
さらにそこへ、近年特有の異常気象が加わる。もはや、従来型の知識や手法では安定した食料生産すら危うくなっているとも考えられる。
QarboGrowはこうした問題にも効果を発揮するとされる。Qarbotechの公式サイトによると、QarboGrowの効果は光合成効率アップと成長促進だけではない。化学肥料の使用量も25%削減するうえ、二酸化炭素の排出量も低い。QarboGrowを1000リットル販売した結果、累積180キロの二酸化炭素を除去したという。
「地形混在地域」東南アジアの農業を救うか
2023年12月、Qarbotechはシードラウンドでの投資と各団体の助成金を含めた70万ドルの資金調達に成功した。TNGlobalの記事によると、Qarbotechはこのラウンドで調達した資金を研究の強化とQarboGrowの生産増強に充てるという。従来の最大50倍の生産増を目指すとしている。
ここで、東南アジアはさまざまな地形が混在する地域であることを思い出す必要がある。
たとえば、カンボジアは地平線が見えるほどの平野が広がっているが、インドネシアは火山島で構成された群島地帯。大規模農業に適した平地がほとんど存在しない島もある。
海岸線と険しい山に挟まれた僅かな平地で効率の良い農業ができる技術は、まさに東南アジア各国の農業従事者が求めてやまないものかもしれない。そして、QarboGrowが世界規模の食料問題すらも解消してしまうシナリオも十分に考えられる。
参照:
Qarbotech
(文・澤田 真一)