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【SusHi Tech Tokyo 2024】ハエの幼虫で食品ロスに立ち向かう。マレーシアのバイオテック企業Entomal Biotech

Techable 2024年5月25日 10時0分

『SusHi Tech Tokyo 2024』のプログラムの一環であるグローバルスタートアッププログラムが、5月15・16日に開催された。

この国際的なイベントでは『SusHi Tech Challenge 2024』というピッチイベントも同時開催。世界43の国・地域の507社からファイナリストの1社に選ばれ、複数の特別賞を獲得したのがEntomal Biotech Sdn. Bhd(以下、Entomal Biotech)というマレーシア発スタートアップだ。

同社はブラック・ソルジャー・フライというハエの力を借りて、廃棄された食料を資源に変える取り組みを実施している。

食品ロスは各国共通の問題

「食品ロス」は、世界各国の課題だ。

消費者庁によると、日本では2021年に523万トンもの食品ロスが発生している。この量は「世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料支援量(2021年で年間約440万トン)の1.2倍に相当」する極めて膨大な量である。しかもこれは、日本だけの排出量だ。

スーパーマーケットも、作った食品が売れずに賞味期限を迎える段階になればそれを捨てざるを得ない。コンビニエンスストアで販売されている弁当も、従業員に配布するという手段もあるがそれは微々たるもの。ほとんどの食品は廃棄物として処理されていく。

現代の飽食は、食品ロスと隣り合わせであることを我々は思い出す必要がある。にもかかわらず、人類は未だ異常気象による不作から端を発する食料危機を完全に克服していない。

こうした機運の中、Entomal Biotechはハエの力を借りて生物廃棄物の処理と有機副産物のアップサイクルに注力している。

ハエの幼虫は「万能選手」

Entomal Biotechは、ブラック・ソルジャー・フライの幼虫(いわゆるウジ虫)の飼育事業を行っている。

ここに1本の動画がある。大量の幼虫を入れた容器の中に、魚を1尾入れる。すると、たったの24分ほどで魚が骨になってしまうのだ。これを食料廃棄物に対して行えば、たちまちのうちに幼虫が廃棄物を消化してくれるだろう。

それだけではない。幼虫が出す糞は、そのまま堆肥として活用できる。化学肥料が高騰している近年、それに代わる高栄養価の堆肥は農家の強い味方になりそうだ。

「さらに、ブラック・ソルジャー・フライの幼虫はそれ自体が食料にもなります」と語るのは、Entomal Biotechの共同創業者兼CCO、Yanni Xinyan Ching氏である。

今回のイベントで出展されたEntomal Biotechのブースには、何やら奇妙な瓶があった。見てみると、中に詰まっているのは乾燥した幼虫ではないか!

「食べてみてください。美味しいですよ!」

Yanni氏にそう勧められてしまった筆者は、恐る恐るウジ虫を口にする。

最初は味がしない。中はどうやら空洞のようで、いとも簡単に嚙み砕くことができる。そのうちに味がした。これはまるで大豆のようだ。なお、筆者の隣にいた大学生も怪訝な表情で幼虫を食べていた。彼はまさか、このようなイベントで幼虫を食べることになるとは考えていなかっただろう。

しかし、確かに美味しい! 見た目に難があるというなら、これをクッキーなどに加工する手もある。

幼虫にはタンパク質と脂肪分など、豊富な栄養が含まれている。これはすなわち、食料廃棄物で新しい食料を作るという意味でもある。

イオンモールも取り組みに参画

幼虫は乾燥させた状態そのままで食べてもいいが、クッキーなどのお菓子に加工することもできる。さらに、ペットフードや養殖魚向けの飼料にもできる。書けば書くほど、ハエの幼虫は万能な食材であるということが分かる。

これが人類にとって有益なものであることが共有されたら、食料廃棄物は「捨てられるもの」どころか「絶大な需要のある資源」に生まれ変わるだろう。生ゴミ回収の在り方にも変化が生じるかもしれない。何しろ、これは「ゴミ」ではなく「資源」なのだから。

Entomal Biotechは、本社所在地の州政府と協力して大手小売店舗から出る食料廃棄物を引き取る事業をすでに実施している。その中には日本のイオンもあるという。これについては、後述するYanni氏のプレゼンで明らかにされたことだ。

実は東南アジア諸国ではイオンモールは広く知られた商業施設で、郊外設置型の大型店舗は休日に多くの家族連れを集めている。日本人にとっては当たり前の惣菜コーナーの寿司や日系メーカーのスナック菓子などは、現地市民に大好評だ。「寿司とはこんなに手軽に売ってるものだったのか!」とは、イオンモールを訪れた筆者の友人の言葉である。

しかし、今この記事を書いている瞬間も「余った寿司」が大量発生しているだろう。

そのような食料廃棄物をEntomal Biotechの施設で処理し、肥料や新たな食品を製造する。まさにバイオテクノロジーの極致のような事業計画である。

なお、小さじ1杯のブラック・ソルジャー・フライの幼虫は7~10日間で、1トンの食品廃棄物を100kgの動物向け飼料と200kgの肥料に変えることが可能だ。

ピッチイベントのファイナリストに

「このあと、私が向こうのステージに上がってプレゼンをします。よかったら見ていってください!」

Yanni氏は筆者にそのようなことを教えてくれた。

Yanni氏を含むSusHi Tech Challenge 2024のファイナリスト7名が特設ステージに上がってプレゼンを行う予定だったのだ。筆者がEntomal Biotechのブースに来たのは12時30分。ピッチイベントの開始は14時。かなり忙しいタイミングで来訪してしまったにもかからわず、Yanni氏は事業内容を丁寧に説明してくださった。

以下、SusHi Tech Challenge 2024の様子を一部ではあるが写真付きで取り上げたい。プレスリリースなどには書かれていない事業内容や将来の目標が、Yanni氏の口から語られた。ハエの幼虫が食料廃棄物を処理することで大幅なCO2削減に直結するということも、その具体的な内訳が明らかにされている。その上で、上記の通りイオンなどの大規模小売店舗との協力関係もすでに構築されているという。

食べ物は「再利用するもの」へ

食品ロス問題は、すなわちCO2排出問題でもある。

食料廃棄物は、従来の方法であれば焼却処分される。その際にCO2が発生し、地球温暖化の要因の一つになってしまうという流れだ。しかし、Entomal Biotechが実施している方法で食料廃棄物を処理すれば、「焼却によるCO2」など出る隙間もない。

上述の食料廃棄物1トンを幼虫が処理した場合、結果として2.4トンのCO2削減につながるとYanni氏は語る。これが数百トン分の食料廃棄物となると、削減されるCO2も膨大な量に上るだろう。

Entomal Biotechは2026年から2033年までに、1日100トンの食料廃棄物を処理できる施設をマレーシア国内に20カ所設ける計画を立てているとYanni氏は壇上で語った。これが実現した暁には、「食べ物は捨てるものではなく再利用するもの」という意識が市民に根付き、また企業間による食料廃棄物の争奪戦も発生するかもしれない。

バイオテクノロジー分野は、新時代に突入しようとしている。

参考:
Entomal Biotech Sdn. Bhd
消費者庁

(文・澤田 真一)

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