近年、盛り上がりを見せているオーディオブックやポッドキャストなどの「音声コンテンツ」。家事や勉強など別の作業をしながら聴けるのが特徴だ。Pew Research Centerの調査(2023年)では、アメリカの18歳から29歳の70%がポッドキャストを聞く理由として「ほかのことをしながら何かを聴くため」と答えている。
こうした“効率のよさ”で支持を集めている音声コンテンツだが、実際には同じタイトルを紙の本で読むのとオーディオブックで聞くのとでは、前者のほうが圧倒的に速い。音読より黙読のほうが速いことからも想像がつくだろう。
そんな中、ポッドキャストでの学びを高速化するアプリが登場した。スイス発のスタートアップ・Snipdによる、社名と同じ名前のアプリだ。
基本的にポッドキャストを再生するアプリだが、SnipdにはAIで学びを効率化する機能が搭載されている。文字起こしや内容の要約、要約の読み上げ、チャプター分けなど、その守備範囲は広い。
なお文字起こしは、iPhoneに標準搭載のポッドキャストアプリでも使えるが、対応したのは2024年3月。Snipdは、確認できる限りでも2021年9月には実現していた。
金融畑出身のCEOが起業、ハッカソンで注目の的にSnipdは2021年にKevin Smith氏、Ferdinand Langnickel氏、Mikel Corcuera氏の3人によって共同設立された。
CEOのKevin氏は大学院で金融工学を学んだあと、グローバル金融機関のUBSで活躍。その後2016年に金融テクノロジー会社に転職し、2019年にはAIおよびデータ分析部門の責任者に就任した。Snipd設立前から、業務でAIに携わっていたわけだ。
そして2020年に「革新的で使いやすいポッドキャストプレーヤーを作る」というアイディアで『HackZurich 2020』に参加し、見事に優勝を果たした。同イベントはヨーロッパの大規模なハッカソンであり、応募が毎年5500件を超えるという高い知名度を誇る。
AIでポッドキャストによる学びを高速化Snipdは「インスピレーションや新しい知識を得たい」というユーザーのニーズに注目し、差別化を図っている。先ほど触れた機能のほか、ユーザーの興味・関心に合いそうなポッドキャストを、要約つきで提案してくれる。
また、ユーザーは自分にとって重要な箇所を気軽に保存することが可能。「他のことをしながら聞いているときでもここを保存したい」と思ったらアプリ上のボタンをタップするだけで、ユーザーが必要としている箇所をAIが自動的に判別し、要約と文字起こしのテキストなどを保存してくれる。
要約はAIによる読み上げも可能で、この場合、5分程度にまとめてくれるという。また、さっと目を通すことで、耳から入れるよりも速く内容を学べる。
2022年に70万ドルの資金調達に成功ポッドキャスト市場は拡大を続ける見込みだ。2022年時点での市場規模は185億ドルで、2023年から2030年にかけて年平均27.6%で成長すると予測されている。
ポッドキャストでの学びをさらに高速化するSnipdは投資家からも注目を集め、2022年にはプレシードラウンドで目標額を上回る70万ドルの調達に成功している。
拡大が見込まれる市場だけに、競合も増えていくだろう。実際、Googleがポッドキャスト再生アプリの提供を2024年に終了すると発表している。他サービスとの差別化で躍進を続けてきたSnipdの勢いが今後も続くのか、注目したい。
参考・引用元:
Snipd
Pew Research Center
Grand View Research
Apple Podcast for Creators
PitchBook
HackZurich
YouTube Music
(文・里しんご)