インドネシアの農家全体のうち、72.19%を占める小規模農家。国の食糧生産を支える小規模農家だが、大規模農家と比べると質の高い肥料にアクセスしづらいという課題を抱えている。
そこでインドネシア政府は肥料業者に補助金を支払い、小規模農家が手頃な価格で肥料を購入できるよう支援をしている。しかし、2022年は化学肥料の補助金対象商品のリストからパーム油を削除し、小規模パーム油農家の多くが混乱に陥るといった事案が発生しており、いまだ課題解決には至っていない。
そんな中、インドネシアのPT Elevasi Agri Indonesiaは、小規模農家の下支えを目指すアグリテックサービス「Elevarm」を展開している。これにより、長年インドネシアの農業にのしかかっていた貧困問題が解消されるかもしれない。
「小規模農家不利」の仕入れ環境を是正する農家が苗木や肥料を仕入れる際には、ある種の不平等が発生する。つまり、健やかな発育が見込める苗木や安価で質の良い肥料は、より資力のある大規模農家にばかり行き渡ってしまうという現象だ。
それとは逆に、小規模農家はいつも質の悪い苗木や肥料を押し付けられる。現地農業メディアAgrofarmにて「低品質の苗木や肥料しか手に入らない小規模農家」の事情が書かれているとおり、インドネシアの農業にはそうした“公平性に欠ける仕入れ環境”が存在するのだ。
こうした状況を鑑みて、Elevarmは高品質な農業資材へのアクセスを民主化する取り組みを行っている。
Elevarmは現在、苗木と有機肥料を小規模事業者に対して安価で提供している。特に注目すべきは肥料で、これはミミズを使った分解肥料である。
ロシアのウクライナ侵攻以来、化学肥料の値段が高騰していることはインドネシアでも変わりない。ワームコンポストの研究は世界中で行われているが、Elevarmは化学肥料に代わる手段としてこれを提唱している。
2種類のアプリを用意Elevarmは、農業の専門家により土壌判定や専用アプリの配信も実施している。
アプリは「Elevarm App」と「PasarAgri」の2種類。前者は資金調達、土地監視、農業情報の提供などの機能を備えた農業生産性アプリ。ジャワ島の3つの州、68の村で8,000以上の農家がこのアプリを利用しているとのこと。
そして後者はマーケットプレイスアプリで、生産者と消費者を直接つなぐ形の取引を実行できる。他のアグリテックサービスと同様、悪質な仲買人が干渉しない仕組みを整備している。TNGlobalの記事によると、このマーケットプレイスアプリで毎月1,000トンの農作物を販売しているという。
主な取り扱い商品は唐辛子、ジャガイモ、エシャロットなどの園芸作物。また、自社ブランドの農業資材(苗木を含む)や、魚や鶏肉など供給パートナーの商品も提供している。
資金調達を受け、苗木飼育用の温室を増設する計画そんなElevarmは今年5月にシードラウンドで総額260万ドルの資金調達に成功した。シンガポールのInsignia Ventures Partnersが主導した同ラウンドには、eFisheryの創業者Gibran Huzaifah氏やベンチャーキャピタル企業の500 Globalが参加している。
今回の資金調達を経て、Elevarmはオーガニック製品の開発を加速するとともに農業ソリューションを改善し、市場での当社の影響力を拡大する見込みだ。
今後、同社はバイオ肥料、バイオスティミュラント(成長刺激剤)、バイオ農薬の開発に生かすとしている。これらは環境負荷の少ない農業に直結するものでもある。
また、Elevarmは苗木飼育用の温室の増設も計画している(参考)。より大規模に苗木を生産することで、低価格の商品を小規模農家へ安定的に供給できるようになるのだ。
それまで質の悪い苗木に頼るしかなかった小規模農家が今後、高品質の農作物を生産可能になれば、実態的な経済成長につながる可能性もある。
参考・引用元:
Elevarm
Agrofarm
TNGlobal
(文・澤田 真一)