脱炭素は、世界中の人々が取り組むべき課題であるだけではなく、新たなビジネスチャンスをもたらす潮流にもなっている。
BCGとCO2 AIの共同調査では、炭素排出量の削減目標達成によって年間1億ドル以上もの利益が得られたと企業の40%が回答している。この調査では他に企業価値の上昇や規制遵守、優秀な人材の獲得、税制上の優遇などのメリットも強調された。
企業による脱炭素の取り組みが進む中、インド北部の大都市グルガオンに本社を置くスタートアップAccaciaは、不動産業界向けに脱炭素SaaS型プラットフォームを提供している。
不動産業界は、脱炭素に向けた取り組みが最も求められている領域だ。国連の報告によると、不動産のライフサイクル全体で発生する炭素排出量は、世界全体の排出量の約40%を占めている。
AIで不動産の炭素排出量の削減と管理をサポート温室効果ガス(GHG)排出量は、1から3までのスコープに分類して算出される。スコープ1は自社が直接排出する量、スコープ2は間接排出量、3は仕入れや販売後の排出量だ。
AccaciaのプラットフォームではGHGプロトコルに基づき、公共料金の履歴やビル管理システム、ERPからスコープごとのGHG排出量を自動追跡する。特に、サプライチェーンの上流・下流での排出であるスコープ3は、カテゴリをカスタマイズして不動産業界向けに特化した。
建設予定の不動産に対しては、資材調達から運搬、解体までライフサイクル全体で排出される炭素(embodied carbon)を、Accaciaの専用モジュールおよびデータセットで計算する。計算結果を用いて、より環境負荷の少ない選択肢を建築家やデザイナーに提案し、炭素排出量の最も少ない設計に向けての支援が行われる。
他にも、AIによる脱炭素プランの立案、政府機関や投資家向けのレポート作成・報告支援など、Accaciaのプラットフォームは幅広い機能を持っている。不動産企業の脱炭素をトータルでサポートしているのだ。
各分野のエキスパートが結集したチームAccaciaのCEOを務めるのは、建築の専門家Annu Talreja氏だ。デリー出身の同氏は、世界有数の建築エンジニアリング企業AECOMのシンガポールオフィスをはじめ、建築業界での経験を持つ。Accacia設立以前にも学生向け住宅を扱うOxfordcapsを立ち上げ、シンガポールとインドで事業を展開したのち売却した連続起業家だ。
また、共同設立者でCTOのPiyush Chikara氏およびディレクターのJagmohan Gaarg氏は、Oxfordcaps時代からTalreja氏と共に行動してきた仲間。
Chikara氏はCicscoやRakuten MobileなどのIT企業で製品開発を主導したベテランエンジニア。Oxfordcapsでは技術面でのコンサルティングを行なった。Gaarg氏はOxfordcapsにてマーケティング、BtoB向けの販売を担当し、年間経常収益(ARR)を20万ドルから200万ドルに増加させた実力者だ。
建築・IT・マーケティングの専門家により2022年に設立されたAccaciaは急速に成長。わずか2年後の2024年4月にはプレシリーズAラウンドで650万ドルの資金調達に成功している。
Talreja氏は現地メディアの取材に対し、「Accaciaのソリューションはすでに2,500万平方フィート以上の不動産をカバーしており、グローバルに拡大する準備ができています」と語っている。
世界的な潮流となった炭素排出量の報告義務化Talreja氏がLinkedInに「15年前はサステナビリティ報告について話すと呆れられたものですが、今では義務となっています」と投稿したとおり、世界各国で企業のGHG排出量報告が義務化されつつある。
米国証券取引委員会は2024年3月に上場企業および新規公開企業に対して気候関連情報開示を強化する規則を採択した。シンガポール証券取引所も、上場企業および大規模非上場企業に対して、将来的に炭素排出量の報告を義務付けている。
こうした状況は、脱炭素ソリューションを提供するAccaciaにとって追い風となっている。
「AIを搭載した当社SaaSモデルは、不動産業者による排出量の監視・測定・報告を支援すると同時に、脱炭素のロードマップを策定するのにも役立ちます」という同氏の言葉どおり、Accaciaは不動産業界においてすでに独自のビジネスを築いている。
世界的に脱炭素の潮流が加速するなか、同社の今後の活躍に今後も注目したい。
参照:
Accacia
資源エネルギー庁
(文・松本直樹)