幅広い分野で導入が進む生成AIだが、なかでも法務との相性は良いとされる。AIを活用して弁護士の業務を効率化するリーガルAIソフトウェア市場が急速に拡大する見込みだ。Business Research Insights社の調査によると、2021年時点で約5300億ドル程度だった世界市場規模は、CAGR約25%で成長を続け2032年には6兆2000億ドルを超えるという。
この伸びの背景には、効率アップとコストダウンを実現し、複雑さが増す一方の法的プロセスと膨大な法関連のデータに対処したいという需要の高まりがある。
そんな市場で順調に成長するのがAlexiというカナダ発のスタートアップだ。生成AIを活用し、法的根拠を裏付ける資料の生成サービスなどを提供している。6月にシリーズAラウンドで1100万ドルの資金調達を行ったばかりだ。
AIで法律関連の業務を徹底的に効率化Alexiのソフトウェアでは、主に3つの機能を利用できる。
「Legal Memos」というメモ機能は高品質の法務メモ(資料)を数分で生成するもの。膨大な量の判例や出展から関連情報をAIが抽出、簡潔で構造の整ったメモにまとめてくれる。従来、法的根拠の裏付けとなるこうした資料の作成には手間がかかり、ミスも起こりやすいものだったが、時間・労力の節約と正確性の向上を同時に実現するという。
2つ目は、法務戦略の策定をサポートする「Arguments」というソリューション。法律事務所および訴訟当事者に特化しており、説得力のある法的戦略を練るための「秘密兵器」とされている。
「Arguments」(議論)という名称のとおりAIに議題を振ってブレストを実行。弁護士費用や損害賠償が裁判官に認められるような主張が提供され、望ましい法的結果の実現につなげる。
Arguments機能を使用する様子は、Alexi公式サイトで動画で確認できる。この動画では「契約違反の訴訟において、クライアントが不当利得の返還または履行命令を裁判所から得られるようにしたい」と入力し、該当する裁判所の管轄を選ぶと、AIが多数の主張例を提示している。
また、日常業務をサポートする「Alexi Chat」は、AIがアシスタントとしてメールや文書を作成、手続きや戦略に関する基本的な質問に答えるという機能だ。
法律の専門家とボンバルディアのエンジニアがタッグAlexiは2017年、Mark Doble氏とSam Bhasin氏の2人によって共同設立された。根底にあったのは、「法律をよりわかりやすくしたい」という思いだ。
CEOのDoble氏は、カナダでのロースクール時代にAIと自然言語処理に心を奪われたという。驚異的なスピードでAI技術が進歩するのを目の当たりにし、AIが弁護士の業務や法制度全体に計り知れないインパクトをもたらすと確信。同時に、誰も解決に向け取り組んでいない複数の技術的な課題についても認識していた。
その後、法律事務所で働き始めたDoble氏だが、1年足らずで起業を決意。その後まもなく、当時ボンバルディアでエンジニアとして活躍していたBhasin氏に出会う。Doble氏が気づいていた問題の解決に貢献できると考えたBhasin氏は、ボンバルディアを離職。AlexiでAIと法律を結びつけるために技術面での課題解決に取り組むエンジニアチームを立ち上げることになった。
ユーザーの支持を集めて1100万ドルを調達同社のサービスは幅広い支持を獲得している。アメリカとカナダに何千ものユーザーを抱え、ユーザーアクティビティも毎月10~20%の伸びを見せているという。カナダ有数の法律事務所Gowling WLGも顧客リストに名を連ねているところから、信頼性の高さも窺える。
投資家の注目も集め、2024年6月にはシリーズAラウンドで1100万ドルの資金調達に成功したと発表。累計調達額は2000万ドルに達した。
資金調達を主導したDrive CapitalのCEOであるChris Olsen氏もAlexiを高く評価している。Drive Capitalが1年で査定する6000社のほとんどが「AI企業」を自認しているが、Alexiのようにビジネス上の課題にソリューションを提供している会社はほんの一握りだという。
AlexiのDoble氏は資金調達に際し、「当社のイノベーション速度は驚異的なもの。われわれは未来を予測するのではなく、創造している」と述べている。同社が「未来を想像」し、市場の伸びを後押しする存在になれるか注目したい。
参考・引用元:
Alexi
Business Research Insights
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(文・里しんご)