今後、世界市場規模1兆ドル到達が予測される分野には生成AIやメタバース、宇宙産業などがあるが、その一角がバイオ医薬品市場だ。Fortune Business Insights社の調査では、2023年に約5700億ドルと評価された同市場は、2032年には約2倍の1兆1800億ドルに達するという。
しかし、この分野では研究開発の効率性低下が課題となっている。マッキンゼーによれば、米国では同市場の研究開発費が2012年の1700億ドルから2022年には2470億ドルへと44%増加したのに対し、承認件数は横ばいの年平均43件だった。新薬開発には平均で12年を要し、臨床試験にかかるコストが全体の60%〜70%かかるのも悩みの種だ。
このような問題に取り組むのが、米国発のAuxiliusというスタートアップである。バイオ医薬品企業向けの財務計画分析ソフトなどを提供し、適切かつ効率の良いコスト管理を実現するという。
3分の1が失敗に終わる臨床試験のコスト管理を革新Auxiliusは2020年にAdam Weisman氏らによって共同設立された。CEOでもあるWeisman氏は、投資会社やコンサルティング会社などを渡り歩いた後、Decision Resources Group社(DRG)で上席副社長を務めた人物だ。DRGは医療業界に特化したコンサルティング会社で、Clarivate Analytics社(NYSE上場)に買収されている。
Auxiliusの設立に先立ち、延べ数百人のCSO(最高科学責任者)やCFOに話を聞いたところ、彼らは臨床研究開発が科学技術だけでは成功しないことを痛感していた。臨床試験の3分の1は、有効性や安全性とは関係のない理由で失敗しているのだ。
特に資金調達に制約がある場合、コスト管理は極めて重要となる。臨床試験の予算管理には膨大なスプレッドシートを使うのが通例だが、メンテナンスに時間がかかるうえクラッシュしやすいという問題がある。
そこでAuxiliusは2023年に、スプレッドシートに代わるクラウドベースソフト「CTFM」(Clinical Trial Financial Managemen)を開発。臨床試験のコストを厳しく管理するだけでなく、リスクと資金調達状況も把握し、効率を劇的に向上させるという。
Auxiliusのソフトはリアルタイムの臨床データ、業者の見積もり、請求書に基づいて正確な費用計上を行う。臨床試験を実施する機関への支払い金額も、患者の訪問回数や処置内容、契約内容などを照合して、裏付けを取ることが可能だ。
前年比800%の急成長、1000万ドルを調達顧客も目覚ましい効果を実感している。臨床試験にかかる予算の精度が40%向上し、会計業務にかかる時間も75%削減。Auxiliusのソフト導入後60日以内に顧客の80%が業者の請求ミスに気づき、100万ドル近い過剰請求を防ぐことができたという。
また、CTFMは既存のツールやワークフローと簡単に統合することもできる。
現時点で50社以上の顧客を持つAuxiliusの業績は好調で、2023年には年間経常収益が前年比800%で伸びている。投資家の期待も高く、6月11日に1000万ドルの資金調達に成功したばかり。資金調達を主導したSignalFire社のLisa Liu氏は、Auxiliusの影響力の波及は単なる効率改善にとどまらないとしている。
「臨床研究開発費用の管理方法を根本的に変革する可能性を秘めている。バイオテクノロジーや製薬企業が効果的に資源を配分できることで、医療技術躍進のイノベーションを加速してくれるものだ」と述べた。
AuxiliusのCEOであるWeisman氏は、資金調達発表に際し「当社の急成長は、わたしたちがバイオ製薬企業に不可欠なツールとしての地位を確立した証左だ。今後もイノベーションへの投資を続け、自ら創り出している市場でさらなる成長を目指す」とコメントしている。
参考・引用元:
Auxilius
Fortune Business Insights
McKinsey&Company
NewsWire
LinkedIn
(文・里しんご)