通常であれば、クラファンプロジェクトの成功度は目標金額達成度や調達金額、支援者数などの数字で測られる。しかし、去る7月11日に「プロジェクト中止」という形での成功例が誕生した。
大学を出たばかりの青年2人によるスタートアップmicronicsを産業用3Dプリンター大手のformlabsが買収し、micronicsが実施していた3Dプリンターのプロジェクトがキャンセルとなったのだ。
micronicsの開発したデスクトップ型SLS方式3Dプリンター「Micron」は、6月14日にKickstarterでクラファンプロジェクトをローンチし、その日のうちに支援額100万ドルを達成。キャンセルされた7月11日の時点で、431人の支援者から135万7,939米ドル(日本円換算で2億円以上)の資金を集めるという注目のプロジェクトだった。
支援者には全額返金のうえ、既存・将来的なformlabs製品購入に使用できる1000ドルのクレジットおよびオープンマテリアル・ライセンスが進呈される。
micronicsの共同設立者であるLuke Boppart氏は、YouTube動画で買収とプロジェクトのキャンセルについて報告し、formlabs本社前から「全員エンジニアなので効率を考えての決断」だと語った。「大金をゲットした僕らが引退してバハマでのんびりするとかじゃない」ので、誤解しないでほしいとのことだ。
起業経緯や企業ミッションなど、よく似た2社の出会いmicronicsは、ウィスコンシン大学マディソン校の同窓生であるHenry Chan氏とLuke Boppart氏によって2021年に設立された。拠点としていた学生時代のアパートからラボに移転済みではあるが、現時点も社員は設立者の2人だけという、その名のとおりミクロなスタートアップだ。
formlabsの株主となる2人は、今後ウィスコンシンからボストンに引っ越してformlabsのチームに参加し、次世代プリンターの開発に取り組む姿勢である。
一方のformlabsは、2011年設立のまだ若い企業ながら産業用3Dプリンターの大手。マサチューセッツ本社のほか、ドイツ・日本・中国・シンガポール・ハンガリーなどに拠点を構えている。CEOのMaxim Lobovsky氏、Natan Linder氏、David Cranor氏がマサチューセッツ工科大学在学中に設立した企業で、起業時はmicronicsと同じ学生スタートアップだった。
5年後を見越してプロジェクトのキャンセルを決断formlabs側の公式ニュースでは、同社CEOのMaxim Lobovsky氏とmicronicsの共同設立者Henry Chan氏との対談動画を公開。買収に至る経緯や今後の展望などについて語っている。
両社の出会いはサンフランシスコで6月に開催されたOpen Sauce 2024の最終3日目、6月17日のことだ。micronicsの2人に会うためにLobovsky氏がブースを訪問。「3Dプリンターをアクセスしやすく、低価格なものにする」というビジョンを共有していると気づくのに時間はかからなかった。
Lobovsky氏はmicronicsの開発力について「ここまでの少人数・小規模、短期間・少ない資金でポリマーパウダーベッド方式を実現できたチームは存在しない」と高く評価。大成功中のプロジェクトをキャンセルした時の思いを聞かれたChan氏は「難しい判断だった」と認めつつ、「より大局的に、かつ5年後を考えると正しい決断ったと思う」と回答している。
ハードウェアのスケーリングには10年近くかかるところをformlabsの豊富な経験と既存顧客ベースからのフィードバック、カスタマーサポートによって短縮できるうえ、「僕たちはより高度なレベルのシステム構築に専念できる」とした(ちなみに、Micronの31×33×70センチというサイズについては「香港出身なのでなんでも小さくしたくなるんです」とのこと)。
ユーザーの頭の中の作りたいものを「形にする」手助けを目指す両社。今後2030年までCAGR23.5%での成長が見込まれる3Dプリンター業界で、彼らがどのようにビジョンを形にしていくのか注目したい。
引用元:
Kickstarter
micronics
Formlabs
(文・Techable編集部)