「肘より小さいものを耳に入れるな」という格言がある英語圏では、綿棒で耳殻をぬぐうだけにとどめるが「耳掃除」であって、綿棒を耳に入れるのはご法度。そこで今、アジア圏のような「耳かき」の習慣がないはずの欧米で、スマート耳掃除デバイスの人気が上昇中だ。
クラファンの耳掃除デバイスはいずれも高い達成率で成功クラウドファンディングサイトKickstarterおよびIndiegogoでも毎年のように耳掃除関連のプロジェクトが高い達成率を示している状況だ。「まだ綿棒使ってるの?」といった、綿棒に替わる製品を主張する文言が目立つ。
現在も中国発の耳かき専門ブランドBebirdが最新モデル「Bebird Home 30Max」のプロジェクトを実施中で、終了まで10日の時点でおよそ200万円の資金を獲得している。2018年以来、製品アイデアからプロトタイプ第一号完成まで達成していた同社は、この分野では先駆者的存在と言える。
カメラ付きスティックタイプと洗浄タイプが主流クラファンサイトの耳かきデバイスは、先端にカメラの付いたスティックタイプと水洗いタイプの大きく2種類に分かれている。2023年に約700万円を獲得した「TOFARO」は、Bebirdと同じくカメラによって外耳道の様子をリアルタイムでスマホ画面に映し出す定番タイプだ。
2022年に約600万円を獲得した「BOCOOLIFE」の製品は、ぬるま湯で外耳道を洗浄するというもの。水量と圧力によって頑固な耳垢を耳から押し出す。水を使うデバイスの手入れは面倒に思われるが、類似製品「Morfone Ear Cleaner」のプロジェクトも1800万円以上を獲得している。
Bebird、TOFARO、BOCOOLIFE、Morfoneの開発はいずれも中国系のブランド。耳かきの習慣が根付いた文化圏の企業が、欧米消費者をターゲットに見据えた状況だろうか。
そもそも「耳かき」の習慣がなかった欧米は、スマート耳かきのブルーオーシャンなのかもしれない。Future Market Insightsのレポートによると、耳掃除関連製品の世界市場は今後CAGR7.1%で成長し、2034年までに約36億9840万米ドルに達すると予想されている。
医学会からの警告届かず、TikTok動画などが人気を後押しか2017年、アメリカ耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会が耳の健康に関する新ガイドラインを発表した。耳には自浄作用があるため耳垢の除去は不要という内容で、むしろ「外耳道を傷つける恐れがある」と強いトーンでの警告だった。
しかし、Bebird製品をはじめ2020年代初頭に消費者向けのスマート耳かきが登場。TikTokを中心とするSNSの耳掃除動画やテクノロジー面の魅力、入手しやすさなどが人気を後押しした。また、耳の衛生に関する理解不足も要因の一つに挙げられる。
商品名が「綿棒」の代名詞である「Q-tips」のパッケージには、「綿棒は耳の穴に入れないでください」と記載されているが、この警告を無視する消費者がほとんど(同社公式サイトでは耳掃除以外の使用例しか見当たらない)。綿棒の誤った使い方をすると耳垢塞栓などが発生するため、結局クリニックに駆け込んで医師による処置を求める人も多い。
上述の製品「BOCOOLIFE」は、「耳掃除のためだけに通院するのはスケジュール的にも経済的にも難しい」としたうえで、製品の有効性を訴求していた。しかし、医療の専門家らは当然ながらスマート耳かきの家庭での使用は非推奨。耳垢に関連する問題が生じた場合には専門家による処置が望ましいとしている。
そしてじつは、耳垢が乾燥タイプの人が多いアジア圏でも耳掃除は基本的に不要だ。それがわかっていたとしても、果たして耳かきを我慢できるかどうか……。
(文・Techable編集部)