インドネシアは、極めて広大な領土と領海、排他的経済水域を有する島嶼国家である。
同国の首都はジャカルタだが、日本人観光客はジャカルタではなくバリ島を訪れることが多い。そのバリ島に拠点を置くスタートアップDjoinは、バリ島以東の「大手銀行のサービスにアクセスできない人」を支援するフィンテックサービスを手掛けている。
これは個々の顧客への直接的アプローチではなく、協同組合をはじめとしたマイクロファイナンス機関を生かした間接的アプローチだ。
島嶼部の金融インフラを支える「協同組合」まずは、インドネシアは日本よりも銀行口座保有率が低いという背景を解説したい。
インドネシア総合研究所によると、2021年のインドネシア全体の銀行口座保有率(15歳以上)は52%。都市銀行だけでなく地方銀行やゆうちょ銀行、信用金庫といった選択肢が豊富にある日本とは事情が全く異なる。これは農村部や島嶼部ではより顕著になっていく。
銀行口座を持たない一次生産者や中小零細事業者は、地元の団体・協同組合からの融資を頼ることになる。日本の農協に近いネットワークともいえよう。Djoinが手掛ける事業を一言で言い表せば、この協同組合の近代化である。
協同組合の近代化を実現するプラットフォーム総合的なソリューションにより、マイクロファイナンス機関、特に協同組合の成長を促進しようというのがDjoinの基本コンセプトだ。
まずは協同組合・団体向けプラットフォーム「Coopmax Core」で組合の財務や組合員の預金を管理しつつ、記帳そのもののデジタル化を実現する。地方の協同組合では、今でも財務管理は紙とペンで記帳することが珍しくない。それを一気にDX化してしまうのがDjoinの狙いだろう。
さらに、組合員向けスマホアプリ「Coopmax Mobile」でネットバンキングと同等のサービスを提供する。これを使えば、組合の預金口座から電気代や携帯電話料金の支払い、送金、さらにOVO、GoPay、DANAといったキャッシュレス決済サービスへの残高チャージも実施できる。
与信判断のサポートももう一つ、Djoinは協同組合向けに「KOCEK」というプラットフォームを提供している。
これは、融資を希望する組合員の信用データを分析・構築する機能を有している。組合の与信判断をサポートするサービス、と表現することもできる。地方の協同組合は大手金融機関と同等の審査部を持たないため、融資の焦げつきも珍しくないという。それを回避するため、債務者の返済能力などをデータ化するプラットフォームが開発されているのだ。
こうしたDjoinの技術により、協同組合は不良債権を56%削減できたという。
インドネシア東部島嶼部に焦点DjoinはI Wayan Indra Adhi Suputra氏、Farzikha Soerono氏、I Putu Takumi Wijaya氏の3人が共同設立した企業。8月にシードラウンドでの資金調達を実現した(金額非公開)。
ここで注目したいのは、Djoinの進出先である。バリ州、東ジャワ州の他、西ヌサ・トゥンガラ州、東ヌサ・トゥンガラ州、南スラウェシ州、マルク州、パプア地方の諸州の協同組合やマイクロファイナンス機関にシステムを提供している。主に東部島嶼部に焦点を当てているようだ。
バリ島以東の地域は降水量が少ない細切れの火山列島で、産業もジャワ島に比べると乏しいと言わざるを得ない。日本でも70万年前の原人の化石が発掘されたことで有名になった東ヌサ・トゥンガラ州フローレス島は、金融インフラが脆弱な地域の一つである。
Djoinはこれらの地域にある100以上の協同組合と契約を結び、その参加の30万人にタッチできる体制をすでに構築しているという。Djoinの今後の事業拡大には注目すべきだろう。
参考・引用元:Djoin
(文・澤田 真一)