日本では成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた時、「若者の金融リテラシー」が大きな話題になった。
18歳からクレジットカードを作れるようになったのはいいが、これを計画的に使いこなせるのか? そのような観点の金融教育をしてこなかったのではないか? そうしたことが懸念された。
そして、これは太平洋を隔てたアメリカでも同様だ。若者がクレカの使い過ぎによる多額の借金を抱えてしまうということもよくあるという。
銀行口座の残高から利用分をその都度引き落とすデビットカードであれば借金のリスクも減ると思われるが、審査がないため信用情報に記録が残らず、ローン審査で不利になるというリスクもある。
そんななか2021年設立の米国スタートアップFizzは信用を構築できる学生向けデビットカードを提供している。
信用スコアに寄与するデビットカードFizzが発行する「Fizz Card」は審査や連帯保証人を必要としないデビットカードである。
あらかじめ紐付けされた銀行口座の残高が即時反映され、Daily Autopay機能で買い物分だけの金額を毎日引き落とし処理してくれる。この引き落としにかかる手数料は無料で、また利息もない。
なお、Fizz CardはMastercardブランドが付与されたカードで、世界中の加盟店で利用できる。利用者が店舗でFizz Cardを使用すると、店舗側が取引のわずかな割合を手数料としてMastercardに支払う。Fizzはその割合の一部を受け取り、収益を得ている。
これだけなら、従来型のデビットカードと大差ない。しかし、Fizz Cardは「信用スコアに寄与する」という点で極めて大きな特徴を発揮している。
通常、デビットカードはクレカと同様の手順で利用できるが、「金融機関からの融資を得た」という実績にはならないため信用スコアの数値は伸びない。だが、Fizz Cardはデビットカードでありながら、使用するたびに信用スコアを構築できるというのだ。
FizzはExperianとTransUnionに対して顧客の返済状況を報告し、そのデータから信用スコアが変動する仕組みである。もしも返済に滞りがあれば、当然ながらそれも報告されてしまう。したがってFizzは、オン/オフの切り替えができるDaily Autopay機能を極力オンにするよう呼びかけている。
若者の経済的な味方になるためになぜ、Fizzはこのようなカードを作るに至ったのか。
Fizz共同経営者のCarlo Kobe氏は、かつてドイツからハーバード大学へやって来た留学生だった。ある日、Kobe氏が携帯電話の契約をしようと思い立った時、「クレジットスコアがないから」という理由で契約を断られてしまった。
クレジットスコアは、クレカを使わないといつまでも伸びない。Kobe氏はスコアを構築するためにさまざまなクレジットカードに申し込もうとしたが、保証人もおらず、既存のクレジット履歴もなく、多額の保証金を払う意欲もなかったためクレジットカードを持つことはできなかったという。
一方、もう一人の共同経営者であるScott Smith氏は、コーネル大学の学生だった。Smith氏は学生仲間にクレカの正しい使い方などをレクチャーしていたそうだが、その中で大学生の金融リテラシーは決して高くないこと、卒業時に数千ドルのクレカ負債を抱えている学生も珍しくないことを思い知らされる。
そして2人は若者の経済的な味方となることを目指し、大学生をはじめ新卒者、留学生、クレジット履歴がまったくない人でも利用できるFizzを設立した。
全米各地の有名大学でポイント特典Fizzの「若者の経済的な味方となる」という志は、スマホアプリ「Fizz Premium」にも現れている。
Fizz Premiumには月々の利用額の設定機能や信用スコアのチェック機能だけでなく、人間のフィナンシャルコーチによるサポート機能、金融知識を学べるテストやゲームなども用意されている。単にFizz Cardを使ってもらうだけでなく、学生たちに正しい知識を身に着けてもらおうという意図が強く見受けられる。
そんなFizzは、今年6月にシードラウンドにて1,440万ドルの資金調達を完了している。
また、Fizzは全米各地の大学とのネットワーク構築も進めている。たとえば、昨年3月13日~17日の期間にミシガン大学のキャンパスを訪れ、1週間に渡って食事の無料提供やキャッシュバック特典などのキャンペーンを行った(参考)。こうした大学訪問は同時期にマイアミ大学、テキサス大学に対しても行っている。大学生に対してその利便性を積極的に呼びかけるFizzの姿勢が見て取れる一面だ。
参考・引用元:Fizz