建築や製造、教育、医療などの幅広い分野で導入されている“スマートグラス”。昨今は福祉分野でも活用されており、昨年1月にはパナソニックがBiel Glasses社と共同で開発を進める視覚障がい者向けスマートグラスのプロトタイプを、米国ラスベガス開催のテック展示会「CES 2023」で初公開した。
福祉用途に向けたスマートグラスの技術開発が進むなか、今年8月にインドのチャンディーガル大学が、電気工学部の学生が視覚障がい者向けのスマートグラスを開発したと発表。
同デバイスは障害物を検知し、事故の回避をサポートするというもの。周囲の状況や潜在的な危険に関する情報を、リアルタイムで正確に提供する。
視覚障がい者の困難を軽減するスマートグラス国際学術誌に掲載された研究論文によると、視覚障がい者の88%以上が生涯のうちに事故に遭っているという(参考)。
チャンディーガル大学のAmit Ranjan氏とSimran Thakur氏は、視覚障がい者が公共の場で移動する際、困難に直面していることに気づき、視覚障がい者が公共の場で簡単かつ安全に移動できる装置の開発を決断した。
通常、視覚障がい者は移動する際に障害物検知用の棒を使用するが、それを持ち歩くのを忘れた場合、公共の場で大きな困難に直面することになる。
そこでAmit氏とSimran氏は、視覚障がい者が持ち歩く必要のないデバイスを開発したいと考え、障害物を検知し移動を容易にするスマートグラスを開発した。
周囲の物体を検知し、安全にナビゲートAmit氏とSimran氏が開発したスマートグラスは小型の開発ボード「Arduino Nano」、超音波センサー、ブザー、触覚フィードバックモーター、リチウムイオンバッテリー、昇圧モジュール、接続ワイヤー、充電モジュールなどを搭載。
超音波センサーは周囲の物体を検知し、Arduino Nanoにデータを送信する。障害物が一定の範囲内にあった場合、Arduino Nanoがブザーと触覚モーターを作動。そこからさらにブザーが聴覚信号を送り、触覚モーターが触覚信号を発生させてユーザーに障害物の位置を知らせるという仕組みだ。
バッテリーを安全に充電できる充電モジュールにより、視覚障がい者が進路上の障害物を検知し、安全にナビゲートできるようになる。
今年1億5000万ルピーの予算を確保チャンディーガル大学は、パンジャブ州のチャンディーガル近郊に位置しているインドの大学。パンジャブ州の私立大学では唯一NAAC(National Assessment and Accreditation Council:大学、専門学校、大学院などの高等教育機関 の評価・認定を行う機関)からA+グレードを授与されている。
UGC(University Grants Commission:インド大学助成委員会)の認可を受けており、工学、経営学、薬学、法学、建築学、ジャーナリズム、アニメーション、ホテル経営、商学など109以上のUG・PGプログラムを提供している。
過去10年間でチャンディーガル大学の学生と教員は、工学、科学、IT、ヘルスケアの分野で2613件の特許を申請しており、そのうち130件以上はパンジャブ州の学生によるものだ。
2021~2022年度には703件の特許を申請して記録を樹立し、国内で年間最多の特許申請機関としての地位を確立したという。なお、スマートグラスを開発したAmit氏とSimran氏は、同デバイスの特許を申請済みだ。
チャンディーガル大学の学長で国会議員のSatnam Singh Sandhu氏は、今回のスマートグラス開発について「生活を簡素化し、社会をより良い場所にすることを目的としたこのような独創的なアイデアと、それを最終製品やサービスに具体化することこそが、チャンディーガル大学を他の大学と差別化するものだ」と述べた。
さらに同氏は、キャンパスでの研究をさらに奨励するために1億5000万ルピーの予算を確保したとコメント。今後もチャンディーガル大学の研究分野の発展に期待したい。
参考・引用元:PR Newswire
(Haruka Isobe)