近年、手足・のど・舌など呼吸に必要な筋肉が衰えていく難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」が増加傾向にある。ALS患者数は世界で約45万6,000人、日本で約1万人と推定されており、毎年1,000人~2,000人が新たに発症している(参考)。
症状が進行すると、筋肉が思うように動かなくなることで言葉を発しにくくなり、ALS患者が自分の声で家族や周囲の人とコミュニケーションをとることは難しくなる。そこで今、やがて失うかもしれない“本人の声”を残す技術の開発が進められている。
今回、ALS研究プロジェクトのAnswer ALS FoundationとAI音声作成サービスのThe Voice Keeperが提携し、ALS患者が音声を作成・保存できるアプリ「Together ALS」を発表した。
ユーザーの“デジタルバージョンの音声”を作成Together ALSはスマートフォンから直接音声を保存する機能を備えた、ALS患者向けのアプリだ。ユーザーは75 ~ 150のさまざまなフレーズや文章を録音し、自身の“デジタルバージョンの音声”を作成することが可能。
このパーソナライズされた音声は、ほとんどの音声生成デバイスで利用できるため、ALS患者は自分のアイデンティティと個性を反映した音声で周囲の人とコミュニケーションを図れる。
Together ALSは使いやすさを重視して設計されており、音声録音のプロセスをユーザーをガイドするという、わかりやすいインターフェイスを備えている。
録音後、アプリの高度なアルゴリズムが録音を分析・合成し、自然なデジタル音声を作成。このプロセスはユーザーの iPhoneだけで完了するため、難しい操作は不要だ。なお同アプリはiPhoneベースだが、生成された音声はWindowsベースの音声生成デバイスで使用することもできる。
実際にアプリを利用したユーザーからは「このプロセスはとても簡単でわかりやすく、声が疲れることもない」「完全に自分の声のように聞こえる」との声があがっている。
医療格差の課題をもつ地域にも医療格差のある地域では、多くのALS患者やその家族がクリニックに通えず、無線LANや自宅のコンピューターにアクセスすることも難しいと言われている。
Answer ALS FoundationのマネージングディレクターであるClare Durrett氏は、研究で音声サンプルを収集している際に、スマートフォンが声を保存する優れた代替手段であることに気付く。そして、このようなサービスを受けられる診療所にアクセスできずにいるALS患者に、Together ALSを代替手段として提供し、最終的には人々が自宅にいながらより多くの研究に参加できる選択肢を提供したいと考えたそうだ。
なおアプリの次のフェーズでは、ユーザーが既存の音声サンプルや、時間の経過とともに追加されるフレーズ、アンケート質問、自宅での遺伝子検査を通じて、継続的な研究に参加できるようになるという。
参考・引用元:
Together ALS
EIN Presswire
(文・Haruka Isobe)