高齢者が集まりって料理や食事をする「シニア食堂」が全国で広がりをみせています。
今回取材したのは、2人に1人が高齢者である阿賀町の「シニア食堂」。
活動を通じて、高齢者が安心して暮らすためのヒントが見えてきました。
全国で広がる「シニア食堂」
カラッと揚がった唐揚げに……彩り豊かな菊の胡麻和え。10種のおかずが詰まったこだわりのお弁当です。
作っている人の多くは65歳以上のボランティアです。
ここは阿賀町にある「シニア食堂」。
シニア食堂の発起人・木村涼司さん
「まるで学生たちが料理を作っているみたいに本当ににぎやかなんですよ。見た目とかもおいしそうな感じで作らせていただいて、見て、食べて、楽しむというかたちで皆さんに喜んでいただきたい」
ひとり暮らしの高齢者が集まり、料理をして食事を共にする「シニア食堂」。
高齢者の孤立を防ぐ取り組みとして全国で広がっています。
お弁当を届けて地域を“見守る”
しかし、阿賀町の「シニア食堂」は少し違います。
出来上がったお弁当を持って向かった先は、地域の高齢者のもとです。
95歳の利用者
「料理の勉強になるの、皆さんが作ったのをいただいて。楽しみにしています。おかげさまで元気です」
弁当の配達ボランティア
「私も元気なお顔を見られるし何よりです」
お弁当とともに届ける“元気”と“安心”。地域の“見守り”も担っています。
孤独死の約8割が高齢者 県内一高齢化進む阿賀町でもー
警察庁によると、ことし1月から半年の間に、ひとり暮らしの人では3万7000人以上が自宅で亡くなっていて、そのうち8割近くが65歳以上の高齢者でした。
「フードバンクあが」によると、阿賀町でもことし11月、ひとり暮らしだった70代の男性が自宅で亡くなっているのが見つかりました。死後2週間ほど経っていたとみられています。
阿賀町の高齢化率は51%。県内30市町村で最も高く2人に1人が65歳以上の高齢者です。
「食事でお年寄りを元気に」発起人の思い
シニア食堂の発起人、木村涼司さん(57)。
ケアマネージャーとして働く中で、ひとり暮らしの高齢者が抱える不安を肌で感じるようになったといいます。
木村涼司さん
「介護認定を受けるか受けないかのはざまの人たちがいる。そういう人たちは日々不安を感じているんだけど、サービスもどうしようかなと思っている人が大人数いる」
もともと家業の仕出し店を営んでいた木村さん。
食事でお年寄りを元気にしたい―
3年前に「シニア食堂」の活動をスタートさせました。
木村涼司さん
「我々が行き来することで安心感というか、相談できる人がいる、気にかけてくれる人がいるというだけでも、生活が安心につながると考えている」
ボランティアが協力 “まるで学生のようなにぎやかさ”
お弁当を届けるのは月に1度。
午前8時半。この日もボランティアが集まってきました。
10人のボランティアでお弁当60食ほどを作ります。食材はフードバンクや地域の人からの寄付が中心で、1食200円と価格を抑えています。
お母さんの腕の見せ所 家庭の味を再現
ゆかりごはん担当の矢部さんは7人家族のお母さんです。家庭でも人気だった味を再現します。
ゆかりごはん担当矢部さん
「うちの子どもたちがおにぎりはこれで喜んでいたから。シソばっかりだと塩味が酸味がきついけど、砂糖入れると和らいでうま味になる」
大家族で鍛えた料理の腕前を披露
中華サラダ担当は江川さん。8人家族の胃袋を満たしてきた料理上手です。
中華サラダ担当・江川さん
「とにかく楽しいですし、認知症予防になるかなと思ってやっている。ひとり暮らしの方が多いので、少しでも役に立てばと思っている」
誰かのために……みんなで作る喜び
ボランティアの多くは60代から80代。中にはひとり暮らしの人もいます。
地域の高齢者を支えるお弁当作りは、作る側にとっても、楽しみや生きがいになっています。
ボランティア
「こういう時だといろいろお話ができたりしますし、充実感がいいなと思って。みんなで一生懸命やって出来上がって」
10種のおかずが入ったこだわりのお弁当
2時間後-調理台にずらりとお弁当が並びました。
食事とともに添える絵とメッセージ 四季を感じて
献立の横に描かれているのは季節の花の絵。
ゆかりごはん担当の矢部さんが毎月、一言メッセージとともにお弁当に添えています。
ゆかりごはん担当・矢部さん
「ツワブキがちょうど咲き始めたので描いてみました。(一言メッセージは)“今が一番幸せかも”と書いた。今おいしく食べられるけど、明日どうなるか分からない」
各高齢世帯を回るボランティア そのやりがいは……
完成したお弁当をさっそく届けに回ります。
ゆかりごはん担当・矢部さん
「配れば喜んでもらえるでしょ。自分がやっていることが喜ばれて、いいですよね。いくら年をとっても、世の中や人の役に立つことがある」
たとえ短い会話でも……顔を合わせる安心感
利用者にお弁当を手渡します。
時間にするとほんの数分…それでも顔を見れば自然と安心感が生まれます。
ひとり暮らしの利用者「バラエティ豊かで素晴らしい」
訪ねたのは91歳の石部夫美さんの家です。
石部さんは「シニア食堂」のお弁当を毎月、楽しみにしています。
シニア食堂の利用者・石部夫美さん
「ぱっと蓋を開けた瞬間にバラエティに富んでいて、ほんと素晴らしいんですよ。味はお年寄り向きだね。(配達の人が)持って行くよ と運んでくれるけど、私はいつもあそこまで出てお礼を言います」
13年前に夫を亡くし、息子は東京で生活しているため今はひとり暮らしです。
夫と共に営んできたガソリンスタンドや商店は10年以上前に店を閉めました。
石部夫美さん
「さみしいなんて考えている暇なかったですけどね、まだ商売していましたか。だけどいま頃になって落ち着いてきたらさみしくなってきた」
壁に飾られたシニア食堂の思い出
そんな石部さんにとって、月に1度の「お弁当」は、人とのつながりを感じられる大切な機会です。
これまでのお弁当に添えられていた絵は、全て大切に飾ってありました。
楽しみは誰かが訪ねてくれること「明日は誰が来るだろう……」
この日は、近所の人と集まって一緒にお弁当を食べることにしました。
お弁当をきっかけに会話も弾みます。
来年92歳になる石部さん。身体の調子が悪いこともありますが、誰かが訪ねてきてくれることが楽しみであり、安心にもつながっています。
石部夫美さん
「皆さん親切にしてくれる。迷惑ばかりかけている。皆さん毎日来てくださるから、明日は誰が来てくれるかなって、そんなことを思っている」
高齢者が高齢者を支えるシニア食堂 「活動の輪広がってほしい」
「シニア食堂」を立ち上げた木村さんです。
できるなら、利用者が一堂に会す「食堂形式」にしたいという思いもありますが、民家が点在し、冬は雪も積もる阿賀町では、お弁当を届ける形が合っているのではと話します。
シニア食堂の発起人・木村涼司さん
「ほんのちょっと手助けするだけで自宅で過ごせる方もいる。自宅にいたほうがその人らしく過ごせると思う。ちょっとしたお手伝いができればいい。コミュニケーションの輪が広がって、皆さんが楽しく幸せに暮らせるまちづくりに少しでも協力できれば嬉しい」
いくつになっても誰かのために……
いくつになっても前向きに……
高齢者が高齢者を支える阿賀町の「シニア食堂」は、地域を見守りながら、美味しいお弁当と安心を届けています。