Infoseek 楽天

「金返せ!」猪木vsホーガンに乱入した長州力に観客ブチギレ 暴動抜きに語れない新日本の歴史

東スポWEB 2024年6月16日 10時17分

【プロレス蔵出し写真館】新日本プロレス・棚橋弘至社長が示した「10項目の指針」が反響を呼んでいる。中でもH.O.Tに向けてと思われる「乱入・介入行為の阻止」はファンの間でも議論が巻き起こっている。

さて、完全決着を期待するビッグマッチで、乱入によって観客の怒りを買い暴動が発生したのは今から40年前、ちょうど今ごろの時期だった。

1984年(昭和59年)6月14日、蔵前国技館でアントニオ猪木VSハルク・ホーガンの「’84IWGP」優勝戦が行われた。前年の同カード優勝戦ではホーガンが優勝した。

エプロンでホーガンのアックスボンバーを食らった猪木が場外に転落。セコンドの坂口征二や木村健吾(後の健悟)、星野勘太郎らが猪木を必死でリングに押し上げた。

このとき、坂口の指示で木村が猪木の口に指を突っ込み舌を引き出した。猪木はリング上で舌を出したまま失神。後年まで〝話のネタ〟にされる「猪木舌出し失神事件」が起こっていた。

〝世界のタイトルを統一する〟というコンセプトの下、3年にも及ぶ壮大なIWGP構想の終着はハッピーエンドにならず、まして〝疑惑〟の舌出し失神と相まって、ファンのフラストレーションがたまっていた。

スカッとした決着で猪木が雪辱を果たし、優勝することはファンの願いだった。

前売り券は1か月前に売り切れ、当日券はプラチナペーパーとなり、入れないファンがダフ屋に「券ないか?」とたずねる現象も発生するほど。新日プロはこの事態を予想し、国技館内の相撲教習所隣に仮設スタジオを作り、100インチプロジェクターを用意して日本で初めてというクローズド・サーキットで、約300人のファンが観戦した。

しかし、またしても裏切られることになろうとは、誰が予想できただろうか…。

16分過ぎ、ホーガンのアックスボンバーをかわした猪木がドロップキック。エプロンに上がったホーガンに猪木が延髄斬りを見舞う。ホーガンはかわして、2人はリング下に戦場を求めた。場外でホーガンがブレーンバスターを放つと両者ダウンして17分15秒、両者リングアウトの判定が下った。

延長戦が行われ、猪木はホーガンに足4の字固めを決めると、その体勢のままエプロンに出て2分13秒、両者エプロンカウントアウト。再延長戦が行われたのだ。

ホーガンがエアプレンスピンで担ぎ上げるとロープをつかんで抵抗する猪木。そのまま両者は場外へ転落。鉄柱を背にした猪木にホーガンがアックスボンバー。猪木が鉄柱にもたれかかると、リング下で戦況を見つめていた〝ひとりの男〟が気配を消して2人に近づく(写真)。

長州力だ! 長州は猪木にリキラリアートを見舞うと、さらにホーガンに向かって行く。そしてラリアートはホーガンのアックスボンバーと相打ち。ホーガンがダウンしている間に猪木がリングに舞い戻り、3分11秒、リングアウトで猪木が勝利を収めた。

この年の1月にWWF(現WWE)ヘビー級王者となっていたホーガンを相手に、ピンフォールやギブアップを奪うことは猪木といえども、難しくなっていたと関係者は明かす。

そして、この結果に観客はキレた。ビールの空き缶やコーラの紙カップ、弁当の空き箱、座布団。リング上にあらゆる物が投げ込まれた。観客同士のケンカも勃発。40分を経過しても帰ろうとしない観客。猪木は私服で出てきて観客に手を振るが、大多数のファンの怒りは増幅し「責任者を出せ!」「金返せ!」「長州、出てこい!」とヤジやシュプレヒコールを浴びせた。

怒号が飛ぶ中、長州は蔵前の控室の裏口からいち早く姿を消していた。

小林邦昭とともに若手の運転で蔵前を後にし、六本木の居酒屋「ばいしょう」(当時の猪木夫人、倍賞美津子の兄・明さんが経営)に寄り食事をとった。

この夜の長州は、六本木で泥酔するまで酒を飲んでいたという話もあるが、同行していた若手はこれを否定。「普通に食事して、(酒を飲んだので)タクシーで自宅に帰りました」と、この説を一蹴。「試合のこと? 長州さんは若手に試合のことを、ああだこうだ言いませんよ」とキッパリ。

ところで、午後11時半過ぎまで会場に居残った約200人の観客は関係者をつるし上げた。このため、主催者側は「今後、長州が乱入するような事態は絶対避けてもらいたい」というファン側の〝嘆願書〟を受け入れるなどして、ようやく事態は沈静化した。

167人のファンの代表者2人は日を改めた21日、港区青山の新日事務所で坂口征二副社長、中根昭男営業部長と会談して要望書を提出。新日プロは異例の対応を取らざるを得なかったのだ。

新日プロの歴史は暴動抜きには語れない。そして、相も変わらず、乱入は〝必要悪〟として残っている(敬称略)。

この記事の関連ニュース