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1971年「猪木vsザ・シーク」幻のポスター 土壇場で〝鉄の爪〟エリックに代わった大人の事情

東スポWEB 2024年6月30日 10時28分

【プロレス蔵出し写真館】「超・燃える闘魂 アントニオ猪木展」(京王百貨店新宿店・7階大催場)は26日、大盛況のうちに幕を閉じた。平日でも多くの〝猪木マニア〟が訪れ、7日間でのべ約3万人が来場した。

開催中、オールドファンなら思わず足を止めて見入ってしまうであろう展示品があった。

「ユナイテッドナショナル選手権 アントニオ猪木対ザ・シーク 9月6日札幌中島スポーツセンター」のポスター。1971年(昭和46年)の〝幻の一戦〟だ。

〝アラビアの怪人〟ザ・シークは、69年9月12日にロサンゼルス・オリンピックオーデトリアムでジャイアント馬場のインターナショナル王座に挑戦。日本テレビでハイライトで放映されたものの〝まだ見ぬ強豪〟として来日が熱望されていた。

71年8月6日に日本プロレスはシークの来日を発表。9月4日、東京・田園コロシアムで馬場のインター王座、そして6日、初対決となる猪木のUN王座に連続挑戦することも併せて発表された。

東スポは1面で「恐怖の怪人シークが初の襲撃!!馬場、猪木と連続世界戦」と報じた。

しかし、シークの来日は突如、中止となる。8月27日、ロサンゼルスで行われた対ボボ・ブラジル戦後、内臓疾患でデトロイトでの静養が決まった。日プロは急性腸炎と発表し、シークの代役は〝鉄の爪〟フリッツ・フォン・エリックとなったのだ。

急きょカードが変更になり、ポスターも作り直す時間がなかったのだろう。試合当日も札幌市内に張られたポスターは「猪木対シーク」のままだった(写真)。

「猪木戦記」(全4巻=ベースボール・マガジン社)を著したプロレスライターの流智美さんは「どこでシークからエリックに代わったかというと、8月のNWA総会です」と明かす。

シークとエリックはデトロイトとテキサスのプロモーターとして8月6日から3日間、メキシコシティ―で開かれたNWA総会に出席していた。

「デトロイトに7月からディック・ザ・ブルーザーが殴り込みをかけて来て、興行戦争が激化していた。シークは仮に1週間であっても日本に行ってる暇なんてなかった。シークとエリックはコソコソ話していて『悪いけど、デトロイトの興行戦争がすごいことになってる。本当は行きたくないから頼む』と、その場で決まったようです」(流さん)

さて、代替のカードとなった猪木VSエリック戦は好試合となった。60分3本勝負で行われ、テレビ生中継。1本目は猪木がエリックのストマッククローでギブアップ。猪木がギブアップするのは極めて珍しく、テレビ観戦の少年ファンは皆、驚いた。

「日プロに復帰した猪木がギブアップしたのは〝4の字固め〟のザ・デストロイヤーのほかにはマイク・デビアスとネルソン・ロイヤル、そしてエリック。3人しかいません」(流さん)

デビアスはデストロイヤーとのタッグで馬場&猪木のBI砲と対戦(67年5月14日、栃木県体育館)。1本目にアルゼンチンバックブリーカーで。ロイヤルは名コンビといわれたポール・ジョーンズと組み、猪木&大木金太郎組のアジアタッグ王座に挑戦(69年3月1日、愛知県体育館)。2本目にテキサスブロンコ・バックブリーカー(キャメルクラッチ)を決めギブアップを奪ったことが記録に残っている。

猪木は65年(昭和40年)の海外武者修行時代、テキサス地区でトップを張っていてエリックと抗争を展開していた。8月27日にヒューストン・コロシアムでデューク・ケオムカと組み、エリックとキラー・カール・コックス組のAWA世界タッグ王座にも挑戦した。1―1から猪木はエリックにアイアンクローを決められ、そのままフォールされて惜敗。

当時の東スポを見ると、猪木は「エリックとは今日で5回やって5回とも負けた。今日はフルファイトしたし、負けても悔いはない」。そう山田隆記者に答えている。

それから6年後、猪木は王者としてエリックを迎え、スリリングな攻防を披露し、引き分けで王座を防衛したのだった。

ところで、猪木とシークの対戦はドタキャンから3年後の74年(昭和49年)に新日本プロレスで実現。シングルマッチは11月12日、13日に沖縄・那覇奥武山体育館で2連戦行われた。初日は猪木が暴走して反則負け。2日目はランバージャック・デスマッチで行われたにもかかわらず、シークは場外に逃げて試合を放棄。猪木が勝利を収めた。

シークはその後、九州地区3連戦の契約が残っていたにもかかわらず途中帰国した。

流さんは「デトロイトでキラー・ブルックスが造反を起こし、傘下のレスラーが別派を結成したからです。札幌のときと似たような背景でドタキャン、途中キャンセルになった。〝プロモーター、偉い人あるある〟なんです」と笑う。

さまざまなできごとが脳裏に去来するシンプルなポスター。今から52年前の、貴重なお宝だ(敬称略)。

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