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「精密機械」荒正義72歳「どんな麻雀でも一局も遊ばず真剣に打つ」勝負感性を磨くため【前編】

東スポWEB 2024年7月7日 10時10分

【レジェンド雀士からの金言】レジェンドプロが自らの麻雀人生や勝負哲学を語り尽くす特別連載に、「精密機械」の異名を持つ荒正義(72)が登場だ。北の大地から彗星のごとく現れ、23歳で獲得した第1期新人王を皮切りに、あまたのタイトルを獲得。古希を控えた2021年、第38期十段位を獲得したことで、同団体の五大タイトル制覇という偉業を達成した。まずは腕一本で時代を切り拓いてきた昭和の時代から振り返ってもらおう。

1945年、荒の祖父一家は国から推奨され、樺太(現ロシア領)で土地開発に従事していた。「終戦直後、祖父たちは命からがら北海道に逃げてきた。もしも引き揚げ船に乗れなかったら、シベリアに抑留されていたんだ」と父から聞いていた。

終戦から7年後、荒は北海道で4人兄弟の末っ子として生まれた。麻雀を覚えたのは小学校2年生、7歳の時だった。

「生まれ育った留辺蘂町(るべしべちょう=現在の北見市)は林業が基幹産業だったので、冬場は出稼ぎに行く家も多かった。各家庭には麻雀卓がだいたいあったから家族麻雀で覚えたんだけど、中学生のころには同級生とバシバシやっていた。高校に行ってもメンバーがそろったら昼には早退して卓を囲んでいたよ(笑い)」

64年は東京五輪、70年には大阪万博が開催され、高度経済成長真っただ中だった国内では、洋食ブームが起きていた。

「渋谷の大衆フレンチレストランで働いていた兄貴から『人手が足りないからとにかく来い』と言われ、19歳の時に上京してウエーターをやることになった。仕事はお客さんの食べ物の好みから、お気に入りの座席などを把握し、スムーズに提供すること。新しいおしぼりが欲しいとか、たばこのマッチが切れたなど、目が合うだけで要望も察知できたので、お客さんからは喜ばれたね。そのうち銀座や赤坂の高級レストランからスカウトされ、移籍するたびに給料も上がっていった。人脈もできたんで、麻雀の世界で生きていけなかったら、ウエーターとしてやっていくことはいつでもできたんだ。戻ることはなかったけどね」

ウエーターの仕事に麻雀が役立っていたそうだ。

「相手が何を考えているのか。麻雀では捨て牌を読まなくても、相手の目線を追って把握している。打牌の音色も情報源なんだけど、牌をパシッと切ってくる人は気合が入っているから満貫以上のイーシャンテンだなとわかる。そういう“人読み”はウエーターの仕事にも生きていたんだよね」

75年、23歳の時に麻雀専門誌「近代麻雀」の主催大会で、第1期新人王を獲得し、同誌でエッセーを書き始めた。さらに翌年、当時唯一のタイトル戦だった王位戦(第5期)で優勝した。

「王位戦はプロアマ混合戦で2000人ぐらい出てくるから簡単には取れないタイトルだったんだよね」

以降、荒正義の名は知れ渡り、週刊誌などからも原稿依頼が舞い込むようになる。「当時の麻雀プロは“書けるプロ”がいいとされていたんだ。安定収入が得られるからね」

このころ、荒たち若手の憧れの存在として名をはせていたのは小島武夫、灘麻太郎、古川凱章の3人。中でも無類の強さを誇り、麻雀関連雑誌や新聞、週刊誌などに10本以上連載を持っていたのが、同郷の灘だった。

「対局会場で初めて会った時『お前、北海道かよ? 青山に住んでるから今度遊びに来いよ』と電話番号を渡してくれた。後日仕事場に伺ったら、連載中の麻雀漫画の原作を書いてくれという。漫画原作は書いたことがなかったのに『いいんだよ、テキトーで』と私に5万円を手渡ししてくれた。大卒初任給8万円の時代にいきなり5万円。試行錯誤しながら必死に書いて4日後に持っていったら、たまたまいい内容だったようで…」

今度は10万円をもらい、もう2本書いてくれと言われた。

「さらに『麻雀プロであることを生かした仕事をどんどんやれ』と、芳文社の週刊漫画TIMESの編集長に私のことを紹介してくれたんだ。紹介されたら書くしかない(笑い)。それで漫画『雀鬼がゆく』という若者のサクセスストーリーを書いて漫画家の司敬さんと組んだらヒットして、その後も麻雀漫画原作を何本もやらせてもらったんだ」

異名は「精密機械」。

「どんな麻雀でも一局も遊ばず、きっちり打つことを意識していたので、そう言われるようになったのかもしれない。麻雀は勝つことが大事だけど“勝負感性”を研ぎ澄ませて打つことはもっと大事。勝負感性はどんな時でも真剣に打つことでしか磨けない。当時は灘麻太郎の背中を追いかけ、いつかその麻雀を超えたいという思いで一生懸命打ってたね」

※後編に続く

☆あら・まさよし 1952年4月12日、北海道北見市生まれ。A型。日本プロ麻雀連盟副会長。主な獲得タイトルは同連盟五大タイトルである第5・29期王位、第8・28期鳳凰位、第3・5期グランプリ(現麻雀グランプリMAX)、第12期麻雀マスターズ、第38期十段位のほか、第1期新人王、第10期最強位、第4回MONDO21名人、第6・7回MONDO王座。著書は「40年間勝ち組を続ける男 荒正義直伝・麻雀サバキの神髄」「麻雀虎の穴」他。漫画原作も「鉄火場のシン」他多数。

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