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「政経電論TV」佐藤尊徳氏 安倍元首相に助けられた人生最大の〝巻き込まれ事故〟

東スポWEB 2024年7月16日 12時16分

ウェブメディア「政経電論」編集長の佐藤尊徳氏(愛称・そんとく=56)と大王製紙元会長の井川意高氏(59)のユーチューブチャンネル「政経電論TV」の勢いが止まらない。「ニュースの表と裏についてひたすら言いたいことを言う」をコンセプトに、昨年5月にチャンネルを開設すると、わずか1年間ほどで登録者数が39万人を突破した。政治、経済という“硬いテーマ”にもかかわらず、なぜそこまでウケているのか。このほど尊徳氏に話を聞いた。(注・数字はすべて7月15日現在)

「政経電論TV」は毎週土曜日午後7時に動画がアップされる。約1年間で更新された動画は67本。決して多くはないが、再生回数はすさまじい。最も多いもので、幻冬舎の見城徹社長をゲストに迎えた「岸田文雄 史上最も薄っぺらい首相」の約229万回。ほかにも100万回前後の動画がズラリと並ぶ。セブン―イレブン、ソフトバンク、楽天…名だたる企業でも2人にかかれば“斬り捨て御免”とばかりに容赦なし。尊徳氏も「最初はこんなに回るなんて思わなかった」と苦笑する。

「高い年齢層でもユーチューブを見るようになったというのはあるでしょう。あと、政治経済を体験エピソードとともに話せる人がいないというのはあるのではないか。例えば、僕らはソニーの盛田(昭夫)さんとかソフトバンクの孫(正義)さんとか実際に会ったことあるし、ポンポン名前が出てくる。そこにアドバンテージがある」

歯に衣着せぬ尊徳氏の毒舌と、106億8000万円をカジノで溶かした“無敵の人”井川氏。2人の掛け合いはさながら漫才を見るようだが、尊徳氏は元「経済界」編集長として政財界に幅広い人脈を持ち、井川氏も大王製紙を率いた元経営者だけに説得力がある。かなりギリギリまで攻めるが「これでも頭の中で考えているんですよ」と話す。当然関係各所から削除要求は届くが、「知るか、そんなもんと突っぱねてます」。

体制におもねらない思考の原点は小学生のころにある。暮らしていたのは神奈川・川崎の貧乏長屋。中学しか卒業していない父親は町の工員だった。病気がちで、生活は楽ではなかった。

「他とスタートラインが一緒じゃないことに不満を抱いていましたね。だから既得権益や体制というものが大嫌いだった」

体制を壊すのは何か。メディアだ。そんな時、新聞広告でたまたま雑誌「経済界」の新卒募集を目にする。内定していた大手損保会社を蹴って入社した。同期は23人。すると、総務の社員から「(創業者で主幹の)佐藤正忠さんの秘書をやってもいい人?」と聞かれ「僕は手を挙げたんですよ、何を間違ったのか。そしたら3日目から随行秘書。これが地獄の始まりでした(笑い)」。

正忠氏といえば知る人ぞ知る政財界の“フィクサー”だ。1928年に秋田県で生まれ、「経営の神様」と言われたリコー社長の市村清氏に仕えた。新日本製鉄の永野重雄元会長、中内功ダイエー元社長など超一流経営者たちと親交が生まれた。その後「経済界」を立ち上げ、2013年に他界するまで政財界ににらみを利かせた。

尊徳氏が秘書になった時、御年63歳。とにかく朝が早かった。午前3時には起床し、その50分後には電話がかかって用件を伝えられる。正忠氏は午前6時に出社するため、その15分前には会社を開けなければならなかった。

「せっかちで、とにかく時間に厳しい。10分前行動は絶対。だって名古屋に正午の予定でも前泊するんだもん。休み? 1か月に1回あればいい方。一度も褒められたことがないよ」

だが、正忠氏と行動を共にすることでネットワークのつくり方から要人との渡り合い方、所作に至るまで叩き込まれた。

「3年で辞めるつもりが、気づいたら22年間もいた」

そんなある日、知人に紹介されたのが、まだ3回生議員だった故安倍晋三元首相だった。

「この人はいいな、と思った。理由はわからないけどピピピときた(笑い)。そこで僕ら年齢の近い経営者らを集めて安倍さんを囲む会を始めたんです」

その名も「夜明けを待つ会」。3か月に1度会食したほか、井川氏とのクローズドな会も定期的に行った。それだけに安倍さんとのエピソードには事欠かない。人生最大のピンチを助けられたこともある。

それは13年に「経済界」を退職し「政経電論」を立ち上げた時のこと。見城氏をはじめ、仲の良い企業家から出資してもらうことになった。ちょうど井川氏がいわゆる大王製紙事件で懲役4年の刑が確定したころだった。そんな井川氏を慰めるため、見城氏が電話をかけるも出ることがなく、コールバックもない。ところが、サイバーエージェントの藤田晋氏とは電話したことがわかり、見城氏はカンカン。「藤田には電話があるのにオレにはない。その親友であるお前には出資できない」と言われたという。

「え~!とこっちは完全に巻き込まれ事故ですよ。井川さんは事情があって藤田君に電話しただけなんだけど…。それで秘書に『ほんとめんどくせえ』とメールを送るつもりが、見城さんに送っちゃった(笑い)。顔面蒼白です」

GMOの熊谷正寿氏やネクシーズの近藤太香巳氏など周囲の企業家が動くも、なかなか関係が修復しない。そんな大ピンチの時、仲介したのが安倍さんだった。食事会がセッティングされたのだ。

「見城さんから『総理が出てくるならオレも折れるしかないよな。お前も来い』と。許してくれました」

見城氏がその席で「政経電論」に安倍さんに出てほしいとお願いすると快諾。現役の首相が創刊号に登場するという最高の船出を飾ることができた。尊徳氏が独立してもバックには安倍さんがいることを政財界に印象づけたのは言うまでもない。

そんな関係深い尊徳氏だが、手放しで絶賛することはなく、非は非とする。

「安倍さんは人を見る目がないからね。腐った自民党をある意味生き永らえさせてしまったし」と話す。そして「今の自民党はオワコンなんです。1度解体した方がいい。岸田(文雄)首相をけちょんけちょんに批判した動画がバズるのも、視聴者の胸がすくからだと思うよ」。

自民党や古い既得権益者がのさばる限り、尊徳氏の毒舌は冴えわたる一方だ。

☆さとう・たかのり 1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。雑誌「経済界」では創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈のつくり方や政財界のネットワークを広げる。同誌編集長などを歴任し、2013年に22年間勤めた「経済界」を退職。同年、株式会社「損得舎」を設立し、ウェブメディア「政経電論」を立ち上げる。昨年5月18日にユーチューブチャンネル「政経電論TV」を開設。趣味はスキー(コブ)と競馬と野球観戦。著書に「やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の『信念の貫き方』」(双葉社)がある。愛称「そんとく」。

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