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全米で話題の〝両投げ両打ち〟サインチェ リトルリーグからMLBドラフト1巡目指名の足跡

東スポWEB 2024年7月22日 5時11分

メジャー史を次々に塗り替えている〝万能の神〟ドジャース・大谷翔平投手(30)もできない挑戦に打って出る新星が注目を集めている。先の2024年MLBドラフトでマリナーズから1巡目指名されたミシシッピ州立大2年のジュランジェロ・サインチェ投手(21)は右で最速99マイル(約159キロ)、左で95マイル(約153キロ)を投げ、打撃も両打ちという超異色の存在。そんなサインチェをリトルリーグ時代から取材しているカルロス山崎通信員が、全米で話題になっている〝スイッチ投手〟の誕生秘話を書きつづった。

サインチェは14日(日本時間15日)に行われたドラフトでマリナーズから1巡目、全体15番目で指名され、契約金488万フォル(約7億6200万円)で合意した。

オランダで生まれ、オランダ領キュラソーで育ったサインチェはもともとは左投げ左打ちだったが、オランダでプロ野球選手として活躍した右投げの父が捕手でもあった影響を受け、2010年、6歳の時に右投げに挑戦。これが両投げ両打ちの始まりとなる。

一躍有名になったのは16年、カリビアン代表キュラソーの選手として米ペンシルベニア州ウィリアムズポートで行われたリトルリーグのワールドシリーズに出場した時だ。

13歳のサインチェは初戦のアジア・パシフィック代表韓国戦に先発登板し、4回1/3を投げ2安打2失点、与四球5、奪三振6で右でも左でもストレートは70マイル(約112キロ)以上を計測するも、チームは0―3で敗れる。

この試合の見せ場となったのは「左」で先発したサインチェが、先頭から3連続四死球で無死満塁のピンチを招き、5番打者に対してカウント2―0となったところで一塁側ベンチから右投げ用のグラブを持ったコーチが駆け寄り、右にスイッチし、右での投球練習を開始した場面。ところが、3球ほど投げたところで大会本部がルールを確認したところ、大リーグ同様、打席中での交代ではなく、左右のスイッチは認められず、左に戻すことになり、結局押し出しの四球で先制点を献上。サインチェは6番打者から正式に「右」にスイッチし、5回途中に交代を告げられるまで右で投げ続けたのだった。この試合はスポーツ専門局ESPNが全米にテレビ中継していたこともあり、パット・ベンディティの再来と大きな話題になった。

ベンディティは15年、アスレチックスで両投げ両打ちのリリーバーとしてメジャーデビューを果たし、16年はマリナーズとブルージェイズの2球団でプレー。当時、グラブは右投げ用と左投げ用を使い分けていたサインチェは、ベンディティが日本製両投げ用6本指グラブを使用していたことを知っており、ウィリアムズポートでの取材時、通訳のジェフ・マルティノ氏を通じて「両投げ用がほしいと思っていますが、見つかりませんし、どこで買えるのか分かりません。もし、何か情報があれば非常にうれしいですし、助かります」と言われ、大会終了後に大リーグ取材現場で名刺交換したことのある日本のメーカーの社員数人に電話などで連絡を取ったものの、残念ながら彼に両投げ用グラブを届けることはできなかった。しかしサインチェはその後、ウィルソン社製とローリングス社製の両投げ用グラブを提供されるような選手に成長する。

16年のリトルリーグ・ワールドシリーズの話に戻る。キュラソーは日本代表調布リトルリーグとも対戦。サインチェはこの時、「1番遊撃」で先発し、二ゴロ、一ゴロ、死球で2打数無安打に終わったが、初回の守備では二死一塁で左翼前に落ちるかというフライを半身になりながら好捕し、無失点で切り抜けると、最終的に2―1で逆転勝ちを収めた。

サインチェはリトルリーグ卒団後も地元キュラソーで両投げ両打ちを続けていくが、知人を頼って米フロリダ州の私立高校に編入すると投手と遊撃手として活躍。22年のMLBドラフト18巡目(全体552番目)でブルワーズから指名を受けるが、大方の予想通り「内定」をもらっていたミシシッピ州立大へ進学する。大学1年時は制球難などの問題を抱えたが、2年生になると右で最速99マイル、左で最速95マイルのストレートに制球力が加わり、ドラフト1巡目の有力候補として名前が挙がるようになり、見事プロ入りを果たしたのだ。

13歳当時、サインチェの身長はチームで2番目に低い152センチだったが、体の線は太く、身体能力の高さは出場選手の中でも際立っていた。「将来はメジャーリーガーになりたいか?」の質問に「もちろんです」と即答したサインチェ少年のキラキラ輝いていた瞳が今でも忘れられない。

メジャーで1901年以降、両投げでマウンドに立ったのは2人だけ。身長は180センチと大リーグの投手としては小柄な部類に入るため、両投げを長く維持していくためのトレーニングやケアがより重要となってくる。異例の挑戦だけに困難も多いだろうが、いつか大谷のように活躍することを願っている。

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