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【菊地敏幸連載#12】川尻哲郎と同年に入団した「Mr.X」 必死の根回しで獲得したが…

東スポWEB 2024年7月30日 11時21分

【菊地敏幸 辣腕スカウトの虎眼力(12)】1994年ドラフトでは4位で日産自動車のリリーフエースだった川尻哲郎を獲得することに成功しました。名門社会人チームの主力を普通は下位指名では獲得できませんからね。阪神としては幸運でした。

私が視察していた限りではピタピタっとほとんど抑えていたんです。でも、都市対抗でたまたま打ち込まれた。他球団が一気にトーンダウンした中で、たまたま私とは同級生だった日産・村上監督に相談したところ、トントンと話が進んでいきました。

最終的に阪神の動きを横目に、川尻獲得を画策する球団もあったようですが…。でも結局、日産サイドがうまく他球団を断ってくれたのだと思います。もう阪神がちゃんと約束してくれてる。最初から来てくれているということで。そのあたりは村上監督がきちっとやってくれたんだと思います。

川尻は自分で言っていたけど「太く短く」という野球人生を歩んでくれたかな。阪神で9年、近鉄、楽天で1年ずつの11年で60勝3セーブ。98年5月26日の中日戦(倉敷マスカット)で記録したノーヒットノーランには驚きましたね。

チームとしては低迷期の時代でしたが、阪神の一時代のローテは藪と川尻が中心になって回してくれていました。そういう意味では一時代を築いてくれたかな。

現在は東京・新橋で虎党の集まる居酒屋「TIGER STADIUM」を経営しています。お店にも遊びに行ってみたいですね。

94年のドラフトといえば川尻の下でもう1人、5位で矢野正之投手を獲得しているんです。彼は神奈川県立霧が丘高校から阪神に入団するわけですが、その時点ですでに19歳でした。勉強嫌いで英語の単位が足りず留年した形です。

県内では1年時から注目される存在ではあったのですが、当時は素行が悪く公式戦にもほぼ登板していません。高校では18歳の年齢制限があるため試合には出てこない。でも、他球団を含めてスカウトからの評価は高い。そういう選手でした。

私の場合は当時の霧が丘高の監督とは別ルートで親しくなっていて「ウチに面白い投手がいるんですが、他球団のスカウトが視察に来ていますよ」と情報をもらいました。では一度、見に行ってみようかということで現地に行くと、すごくカッコイイ、絵になるピッチャーだったんです。

横溝スカウト部長も呼び寄せて実際のボールを見たのですが「プロでやる気はあるか? ウチが獲るから」という判断でした。そこからの私の仕事は水面下での根回しということになります。

本人、監督にも話をして他球団の関係者が視察に訪れた際には「わざとバラバラにいい加減に投げるんだぞ」と伝えていました。中日、ロッテを含め5人ほど視察に訪れたそうですが、阪神としては「矢野本人はもう野球はやる気ないって言ってますから。留年していて時間もかかりそうだし、しんどいんじゃないかな」とシラを切り続けました。

横溝部長も当日まで「Mr.X」と言って矢野の名前を身内にまで内緒にしていた。情報漏えい対策は万全で無事に指名、獲得となりました。ただ、これで大活躍してくれていればなお良かったんですけどね(在籍4年で一軍登板3試合)…。

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