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【菊地敏幸連載#16】参考記録ながら7回完全試合!10連続含む18K!井川慶にホレた

東スポWEB 2024年8月6日 11時13分

【菊地敏幸 辣腕スカウトの虎眼力(16)】1997年のドラフトの目玉は巨人入りした高橋由伸外野手(慶大)、中日入りした川上憲伸投手(明大)でした。ですが、全体的に見れば人材不足という感覚は否めませんでした。

私の担当で言えば高橋由伸をマークしなければならなかったのですが、早くから在京球団を希望していたとあって、そこだけに注力するわけにもいきません。この年から新たに私の担当エリアとなっていた茨城県の強豪校、水戸商業高校の剛腕のうわさを聞きつけ、早速調査を始めました。

最初に井川慶を目撃したのは春の茨城県大会でした。竜ヶ崎一高を相手に参考記録ながら7回完全試合。21個のアウトのうち10連続を含む18奪三振というすさまじい投球を見せつけられました。

あの馬力の塊のようなたたずまいにほれ込みました。そこから徹底マークでした。水戸商の橋本監督と、当時の阪神・末永チーフスカウトが実は中大の同級生だったこともあり「えっ、監督はあの橋本なの?」という感じでいい流れで来ていました。

それで、とにかく試合を見に行ったのですが、最後の夏を前にして井川が投げないんです。試合にすら出てもこない。そこでチェックを入れた結果、腰を痛めていることが判明しました。練習に何度か視察に行くと、投球練習時にロジンバッグに触れることすらしんどい状態でした。

地元の医院、接骨院などを受診していたようですが、はっきりした症状などは分からないまま。症状が改善されないまま、最後の夏は準決勝から投げさせるとのことで、私は横溝スカウト部長とともに井川の視察に赴きました。

実際には準決勝で井川は登板回避したもののチームは決勝進出。決勝は水戸市民球場での茨城東高との対戦となりました。井川は8回3安打完投と奮闘するも1―4で惜敗。腰痛が相当にひどかったんでしょう。井川は試合中に転倒してしまう場面もあったほどでした。

上司に見せた試合がこれでは井川の実力が伝わるはずもありません。夏の甲子園大会中にスカウト会議があるんですが、井川の指名はどうなるんだろうと思ったものです。ただ、この年は全体的に不作の年とあってなかなか他の有力選手の名前も挙がってこなかったことも事実です。

捕手を獲得したいというチーム方針もあり、1位は智弁和歌山の中谷仁という流れになりました。最終的には井川を2位で押さえろという指示が出ましたが当然、腰の具合だけはチェックしろとの指令が出ました。重症であれば指名するわけにはいきません。

ドラフト上位で獲得した選手が致命的な故障を抱えているとなれば、スカウトの調査不足を責められることは避けられません。とはいえ、アマチュア野球界の選手、特に高校生との接触というのもデリケートで、こちらからズケズケと治療を受けなさいと言うわけにもいきません。

もうここからは末永チーフスカウトの出番です。水戸商・橋本監督の同級生ですから。これはアウトなのかセーフなのか…。今ではもう時効だと思いますが、大人のパワーで井川の腰痛の原因を究明していくことになります。

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