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パリ五輪スポーツクライミングで“差別”あったのか?専門家が徹底検証【前編】

東スポWEB 2024年8月27日 11時34分

身長差による有利不利は?“差別”はあるのか? パリ五輪のスポーツクライミング複合女子決勝で、森秋彩(20=茨城県連盟)がボルダーの第1課題を攻略できず、まさかの0点に終わったことが大きな論争を巻き起こした。日本人女性初のプロクライマーでスポーツクライミングの専門家でもある尾川とも子氏(46)が取材に応じ、全2回にわたって徹底検証。前編では今回議論を呼んだポイントについて見解を示した。

メダル獲得が期待されていた森は、ボルダーの第1課題で身長が影響する設定に苦戦して無念の0点に終わった。得意のリードでは高得点を挙げて猛追するも4位に終わり、惜しくもメダルを逃す結果となった。身長154センチの森が第1課題でホールドに飛びつこうとするも落下する姿が何度も繰り返されたことで、課題の設定に関して議論が百出。英紙「デーリー・メール」が「ファンは彼女が『いじめられた』と主張している」と報じるなど世界中で物議を醸した。果たして設定は適切だったのか。

尾川氏 全体的に見た時は良いセットだという評価が大きいです。森選手がスタートからジャンプを要求された課題で、ああいう苦戦を強いられるという場面は、W杯などでもよく見られます。でも森選手のリーチに合わせてしまうと、逆にそれ以上の選手がみんなジャンプせずに届いてしまい、難しさという要素がなくなります。ジャンプの要素や動作などで難易度が決まるボルダーに関しては、そこを省いちゃうと簡単になって順位がつかなくなります。おそらく未経験者の方には理解しがたく、ただかわいそうに見えたのかなとは思いました。

金メダルのヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)は164センチ、銅メダルのジェシカ・ピルツ(オーストリア)は165センチなど上位勢と森とは10センチ前後の差がある。競技の特性として身長による有利、不利はあるのか。

尾川氏 課題によってなんですよね。第1課題は低身長がたまたま不利でしたが、第3課題ではすごく狭い動きを要求されたので、森選手や背の低い選手が登る半面、背の高い選手が逆に登れなかったりしました。ボルダーに関しては、どうしてもジャンプの要素が最近多いので、低身長だとよっぽどジャンプ力がないと戦っていけません。だからといって、170センチ、180センチの選手が強いかと言ったらそうではありません。全体的に見たら、平均とも言える160センチ台の選手が有利ではあります。セットする方も平均の身長を目安にセットしますから。

どのようなスポーツでも、ルールの中でさまざまな選手が体格に合わせた戦い方があるというのは当然でもある。

尾川氏 身長別にしたらとかご意見をいただきますが、例えるなら相撲と一緒なんです。相撲は体重別じゃないですよね。小さい力士も大きい力士も向かって戦っていきます。相撲を体重別にしましょうというのと同じ感覚なんですよ。そういうスポーツだと思って見ていただければ。

課題設定の際に欧米勢に有利との指摘もSNSなどでは多く出ていた。実際に“差別的”な要素が入ることはあるのか。

尾川氏 私は絶対ないと思います。(パリ五輪では)日本人の方がセッター(課題設定者)に入っていますし、おかしいとなると思うんですよね。差別的なことがあったとしたら、フランス人選手が8位にならないし、3課題目がその選手は0点でした。森選手はリードが明らかに強いと分かっていますから、不得意なほうを落とすより、リードの真ん中でものすごいジャンプを入れたりして、森選手を落としてやろうと思うでしょう。そういったものもなかったですからね。

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