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【菊地敏幸連載#35】鳥谷獲得の翌年も早大から貴重な人材が阪神に

東スポWEB 2024年9月10日 11時3分

【菊地敏幸 辣腕スカウトの虎眼力(35)】2003年ドラフトでは早大・鳥谷敬内野手を自由枠で獲得することに成功しました。その翌年の04年は自由枠で松下電器・岡崎太一捕手、大阪ガス・能見篤史投手を獲得するに至りました。

その04年の出来事なのですが、ドラフトでの選手の戦力補強以外に2年連続で早大から貴重な人材を阪神が獲得していることをご存じでしょうか。

実はこれも鳥谷を獲得できた相乗効果と言えばいいのでしょうか。鳥谷から見れば、早大の1学年年下にあたる野球部マネジャーが阪神電鉄本社の社員として入社してきたんです。そこからタイガースに出向し、主に広報担当として球団の発展に尽力してくれた松尾英孝元広報部次長が、その人物です。

鳥谷の学年には早大の学生マネジャーは不在でした。すなわち、鳥谷が大学4年生の頃には早大の主務としてチームを取り仕切っていたのが松尾くんというわけです。

大学生とはいえ、プロ野球チームに逆指名で入団していく選手が在籍しているチームです。学内の新聞部などとの取材調整もある中、本物のテレビ局や新聞社などからも取材依頼が入ります。さらには遠征のアポ取りや旅行の手配など業務は多岐にわたります。

ドラフト注目の鳥谷の取材ともなると全国紙にコメントがドカンと掲載されます。その内容によっては選手や野球部、大学に不利益を招くなんていうトラブルもあり得るかもしれません。そうならないよう、オフィシャルなコメントに関しては全て、松尾が管理をしていました。当然ですが、コメントを都合のいいように捏造(ねつぞう)するという意味ではありません。選手の話し言葉の真意を誤解なく伝えるため、書き言葉として調整するという意味です。

学生時代の松尾からわれわれに伝達される情報は正確かつ過不足なく迅速でした。これは仕事ができる学生だなと思っていました。とあるタイミングで早大・野村監督に私からこんな話を持ち掛けました。

「今年に関しては選手のドラフトは…なんですがね。個人的には松尾くんにタイガースに来てもらいたいんですけど」

すると野村監督は「菊地くん、いいとこ見てるね!」と笑っています。ただ、優秀な学生にありがちな話なのですが、就職先としては日銀や省庁に取られていくほどの人材というじゃないですか。

そうなると阪神で大丈夫かな? そんな考えもよぎりました。でも、もう球団には話を通していました。ただ、あくまでガチンコで一般採用試験を受けてもらっての話です。晴れて阪神電鉄に内定となった際には球団で活躍してもらえるよう、道筋だけはつけたという状況です。

松尾は「阪神で一緒にお仕事をしたいと思います。お世話になりたいです」と前向きでした。こちらは「本当に阪神でいいのか? 給料も大したことないぞ(笑い)」って一応、再確認しておきました。その後、ポンポンと採用試験に合格してくれて同じ職場でお仕事をするという流れとなりました。

人の人生とは不思議なものです。阪神が鳥谷を自由獲得枠で指名したご縁が学生の人生にも大きく影響しました。私は球団から離れた身ですが、いつまでも陰ながら応援しています。

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