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【菊地敏幸連載#37】野球部のない会社から獲得した黒田祐輔 身体能力は一級だったが…

東スポWEB 2024年9月12日 11時8分

【菊地敏幸 辣腕スカウトの虎眼力(37)】今回は2007年ドラフトのお話をさせていただきます。この年の目玉は大阪桐蔭高の中田翔外野手でした。阪神は高校生1巡目でオリックス、ソフトバンク、日本ハムと競合の末に抽選に外れ、横浜高・高浜卓也内野手(後にロッテ移籍)を指名に至りました。

大学・社会人では希望枠が撤廃。入札抽選方式でドラフトが行われ、こちらも指名競合が起こりました。阪神は1巡目で東洋大・大場翔太を指名し、巨人、横浜、オリックス、ソフトバンク、日本ハムでの抽選に敗れ、福岡大・白仁田寛和投手を獲得したドラフトでした。

この年、私の印象に残っている選手は社会人から4巡目で指名したシャンソン化粧品・黒田祐輔投手です。シャンソンといえば、女子バスケでは有名ですが野球部はありません。そんな会社から投手を指名するってどういうこと? そんなこともあって、当時は話題になりました。

この裏には複雑な事情がありました。黒田は静岡高校出身で甲子園も経験した投手です。卒業後は東都リーグの駒澤大に進学。同じ静岡県出身の太田誠監督からの勧めもあって野球部に入部しましたが、その太田監督の退任と同時に退部、退学となってしまったんです。大学野球特有の上下関係でうまくいかなかったそうですね。

ただ、黒田の身体能力の高さは有名で陸上をやってもサッカーをやっても一級品だという話でした。この才能をこのまま埋もれさせてはもったいないということで、静岡高の畑田裕視監督が声をかけ、母校でコーチをやりながら練習を続けていました。静岡高野球部の後援会長が地元のシャンソン化粧品の川村修社長というご縁もあって、同社に入社。昼までは社業にいそしんで午後からはグラウンドに立つという生活をしていたようです。

そんな折、静岡の野球通の人物から連絡が入りました。「君、ちょっと面白いピッチャーがいるから、見にきてくれない」といった具合です。その方も静岡高のOBでした。

まずは見てみないと分かりませんから、私も視察に行かせてもらいました。すると評判通りで190センチの長身にもかかわらず、身体能力がとんでもなかった。とはいえ、これは私だけの判断では決められないでしょう。投手としての評価が必要なので山口高志スカウトと黒田正宏編成部長と同行して再視察に赴きました。

阪急で名投手として鳴らした山口スカウトの見立てでは…。首をかしげてはいました。ブランクもあるし、基本的に野球を長くやっていない状態だったのでどうなんだろうというニュアンスでした。私としては自ら推薦している身ですから、山口スカウトには編成会議でプッシュしてほしいとお願いしました。

ただ、黒田の情報は複数の他球団にも流れていました。特に評価が高かったのは楽天です。阪神の動きを警戒し熱心に調査を行っていました。担当はまだ経験の浅いスカウトでした。「阪神はどうなんですか?」と聞かれましたが、私の立場では「ブランクもあるし、難しいという評価だよ」としか答えられません。

実際には阪神が獲得に至るわけです。楽天スカウトとしては、だまされた気持ちになったかもしれません。が、それも経験です。自分が推す選手なら自信を持って編成会議で上位指名を進言すればいいわけです。

これで黒田が活躍してくれていれば言うことなかったんですが。NPBでは一軍出場なし。やはりプロは厳しい世界です。

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