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ユーミン『あの日にかえりたい』もボサノヴァです 音楽ライター・栗本斉氏オススメ「鉄板の5枚」

東スポWEB 2024年9月15日 10時43分

酷暑も和らぎボサノヴァを聴くにはふさわしい季節になってきた。ボサノヴァはブラジルの国民的音楽で、日本はもちろん世界中にファンは多いが、名前は知っていても聴いたことはないという方も多いはず。そこで中南米を2年間、放浪した経験を持つ音楽ライターの栗本斉氏がボサノヴァの魅力と歴史、さらに「鉄板の5枚」を推してくれた。

ボサノヴァとは、1950年代中盤にブラジルで生まれたポップミュージックの新たな流れのこと。それ以前の音楽シーンはカーニバルを主軸にしたサンバが大衆音楽の中心だった。

栗本氏は「米国のジャズを聴いていた若者たちには物足りなかった。ブラジル特有の音楽を作りたいという動きから新しい流れが起きた。その中で出てきたのがボサノヴァの神様と呼ばれたジョアン・ジルベルト。ギターで『バチーダ』という独特の奏法を作り出してリオでそれを広めた。同時に新しい流れを作り出そうとアントニオ・カルロス・ジョビンといった大物もサンバとジャズをミックスさせた音楽を作っていたんです」と語る。

59年にはジョアンが最初のボサノヴァソングとされる「想いあふれて」をヒットさせる。

「中流階級以上の若者たちが自分たちのライフスタイルに合った音楽を作ろうとして生まれたのがボサノヴァだった。サンバのリズムを洗練させていき、ジャズやクラシックの要素を取り入れた穏やかな音楽。基本的にはジョアンのようにギター1本でシンプルなリズムを演奏するサウンドですね。時代性としては米国西海岸のジャズの影響を受けています」

世界的に広まったのは「ジョビンやセルジオ・メンデスといった人たちに米国のジャズミュージシャンが興味を持ち、米カーネギーホールで62年にボサノヴァのミュージシャンが一堂に会して大きな話題になった。また、名サックス奏者のスタン・ゲッツがボサノヴァを演奏し始め、ジョアンとのアルバム「ゲッツ/ジルベルト」(全米2位)を出して人気は決定的になった。その後、ボサノヴァの大御所たちが米国に進出して成功したわけです」と説明する。

有名なジョビンの「イパネマの娘」(64年全米5位)はグラミー賞を受賞。完全に世界的にも認知され、ジャズミュージシャンもボサノヴァを取り上げるようになった。

また、日本への影響も大きく「60年代にジャズの大御所・渡辺貞夫さんがボサノヴァを日本に持ち込んだのですが、それ以降、70年代には歌謡曲にボサノヴァが取り入れられるようになった。例えばヒデとロザンナや、いしだあゆみなんかはボサノヴァ歌謡を歌っているし、ニューミュージックの時代はユーミン(荒井由実)の『あの日にかえりたい』や稲垣潤一『ロング・バージョン』はボサノヴァです。新たなジャンルの音楽として日本のミュージシャンに消化されましたね」という。

総論として「ほかにない音空間、洗練の極み、穏やかで自然に聴いていて気持ちいい。今の季節にはピッタリだと思います」と栗本氏はボサノヴァの魅力を語った。これを機にぜひ洗練されたサウンドに耳を傾けてほしい。

【「ジョアン・ジルベルト/三月の水(73年)」】

ボサノヴァを始めた神様が、米国メジャーから出した名盤。独特のささやく声とどうやって弾いているのか分からないギターを堪能できる。入門編には最適ですね。

【「アントニオ・カルロス・ジョビン/波(67年)」】

僕が一番好きなアルバム。ボサノヴァは本来はギターで弾くものですが彼はピアニストなので、洗練されたアレンジのオーケストラがたまらない名作です。

【「カエターノ・ヴェローゾ&ガル・コスタ/ドミンゴ(67年)」】

2人の天才が一緒に作った心地よいアルバム。90年代の渋谷系やカフェブームでもリバイバルした。声を張らずに2人が夜中にコッソリ会話しているようなまったりとした音がたまらない1枚です。

【「ナラ・レオン/美しきボサノヴァのミューズ(71年)」】

彼女は上流社会の子女で反体制的な思想も持ち、パリに亡命してこのアルバムを作った。ボサノヴァにこだわった真面目さを感じるし、歌の深みと独特のエコー感がたまらないです。

【「セルソ・フォンセカ&ロナルド・バストス/スローモーション・ボサノヴァ(2001年)」】

シンガーのフォンセカが作詞家のロナルドと組んだ作品。ジョビンが作った洗練したボサノヴァをアップデートさせ、ほのかにR&Bの香りを漂わせ現代によみがえらせた名盤です。

【90年代シティポップもぜひ!】栗本氏はJ―POP評論の第一人者でもあり多くの著書がある。8月には90年代のシティポップの2枚組コンピレーションCD「CITY POP GROOVY 90s ―Girls&Boys―」(ソニー・ミュージックレーベルズ)が発売されて好評を呼んでいる。昨年には70~80年代のシティポップをまとめたコンピが発売され好セールスを記録したため、続編発売に至った。全30曲が収録されている。

「90年代にも、70年代、80年代の流れをくんでいるシティポップがたくさんあったので90年代でまとめてみようかと。特にソウルミュージックのグルーヴ感を持った楽曲をセレクトしてみました。都会的で洗練された音楽ですね。ボーイズサイドとガールズサイドに分かれていて、ガールズはシンガーが多くボーイズはバンドやユニットが多いのが特徴です。70~80年代のシティポップに興味がある人に『90年代にもシティポップ的な音楽があったのか』と楽しんでいただければと思います」と笑顔を見せた。アナログ盤も発売中。必聴の1枚だ。

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