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【菊地敏幸連載#43】手違いで藤川俊介を5巡目指名…残念だった阪神のその後の対応

東スポWEB 2024年9月26日 11時8分

【菊地敏幸 辣腕スカウトの虎眼力(43)】2009年のドラフトでは近大・藤川俊介外野手を手違いで5巡目指名してしまったことから、トラブルになってしまいました。

というのも俊介は大学4年の時点で社会人野球の東邦ガスから内定を受けていました。その上でドラフト3位以内での指名でなければ入社する旨を12球団に通達していたからです。

この内容は我々も担当の畑山スカウトから編成会議の場で聞いていました。会議の内容は録音もされていますから、周知されていた事実です。それをドラフト当日、テーブルについていた私が失念してしまい、5巡目で獲得できるならと指名してしまったという経緯です。

言い訳になってしまうのですが、事情もありました。ドラフト当日は会議に出席しているメンバーの仕事がスムーズに展開するよう、秘書役のスタッフがサポートしてくれています。そのスタッフがこれまでの編成会議の内容をまとめてくれていて、1位は誰々、投手は誰々、野手は誰々、外した場合はこっちというふうにメモを作成してくれています。そのメモの中に藤川を指名の場合は3位までという文言が抜けていたんですね。

どんな社会でも同じだと思いますが、誰でもミスを犯すことはあります。大切なのはその後、組織としてどう動くかということだと思うんですね。そう思うと、当時の球団、編成部の対応はどうだったかというと少し残念な面もありました。

担当は畑山スカウトということで、責任を一人に押し付けちゃう感じで気の毒でしたね。当時の上席の中には「そんな話を俺は聞いてない。会議中、電話か何かで席を外していたから知らない」とあきれた発言をした人物もいました。

会議の内容は録音されていて、議事録も残っています。そこに出席していて「知らない」はおかしいでしょ。でも、そんなことを言っている場合ではないんです。すぐに近大、東邦ガスに連絡を取って対応しないといけません。

理屈から言ってしまえば俊介はプロ志望届を提出しているわけですから、指名すること自体は問題ないんです。ただ、本人から3位以内のドラフト指名がなければ就職という意思を示されていることを無視するわけにはいきません。

結果的に俊介は阪神に入団しました。野球選手である以上、プロからドラフト指名がかかれば挑戦したくなるというのが心理でしょう。大学、企業に頭を下げて本人の希望を尊重するのが大人のやり方だと思います。3位なのか5位なのかで人生を左右することはないんです。下位指名にはなりましたが、球団は恥ずかしくない契約金と年俸を提示し、背番号7を用意して俊介を迎え入れました。

当時、私は思っていたことがあるんです。当時、阪神には星野仙一シニアディレクター(SD)がいたわけです。そこは出番でしょうと思っていました。東海地区では絶大な影響力を持つ元中日のエースであり闘将ですよ。東邦ガスに一報を入れ「ウチの手違い。申し訳ない」のひと言で収まるはずなんです。阪神に行かせないなんてなるわけないんですから。

球団としても安くはないギャラを星野さんに提示していたはずです。いざという時にとっておきのカードを出さなきゃ。いまさらそんなことを言っても仕方がないですが、当時の阪神は人材の有効活用が得意とは言えない組織でしたね。

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