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【菊地敏幸連載#52】「獲りたくて獲ったんじゃねえ」98年ドラ1藤川球児入団の舞台裏

東スポWEB 2024年10月11日 11時10分

【菊地敏幸 辣腕スカウトの虎眼力(52)】1998年の阪神のドラフト1位といえば誰ですか? 虎党にそう質問すれば、ほとんどの人が「藤川球児」だと答えられるでしょう。ただ、入団当時の球児はまだ細身で自らが持つポテンシャルを存分に発揮できていませんでした。

球児が1年目だった99年の高知・安芸キャンプでの出来事です。球児のブルペンを視察した野村監督はブスッとこうボヤきました。「これがドラ1か…」。これは球児自身も覚えていて、いろんな場面で語られているので有名なエピソードでしょう。

まだまだプロの体に成長していなかった時代の球児です。野村監督からすれば期待するからこそのハッパだったのでしょう。しかし、担当スカウトだった谷本稔さんは怒りましたね。谷本さんは大映スターズ、大映ユニオンズ、大毎オリオンズ、東京オリオンズ、阪神でプレーされた名捕手です。日本シリーズ、オールスターも経験されています。

野村監督とは同じ時代にパ・リーグで捕手としてしのぎを削った関係性です。余談ですが、2006年に西武・炭谷銀仁朗がNPB史上51年ぶりに高卒ルーキー捕手として開幕スタメンマスクをかぶったことを覚えているでしょうか。その51年前が谷本さんでした。

話を戻します。野村監督の球児評がキャンプ中に高知・安芸に滞在していた谷本さんにも伝わってしまいます。すると谷本さんが宿舎の夕食の席でお皿を投げるわの大荒れですよ。そこで「俺も獲りたくて獲ったんじゃねえ」とやっちゃった。

もちろん、本音は谷本さん自身が発言されているように「球持ちが良く、将来性が豊かな素材」なんですよ。あまりにも頭にきて言っちゃいけないことを言ったんですがね…。でも、これは球児本人が結果で見返したのでいいでしょう。

私は04年の秋だったか、05年の春だったか。キャンプを視察した時に衝撃を受けたことを覚えています。ブルペンで一軍レベルの投手がピッチングし、最後に球児が入ってきた。そうしたら桁外れのボールを投げるわけです。私としてもどうしたの?というくらいに驚きました。

球児に影響を与えたとされる当時の山口高志二軍投手コーチに聞くと「自分は大したことは言ってない」と謙遜します。球児は早くに家庭を持った選手ですし、このままでは終われないという強い気持ちで必死だったんだと思います。そこに体の成長、メンタルの成熟が重なって大ブレークとなったんだと思っています。

NPBの舞台でひと花どころかメジャーも経験して名球会ですからね。782試合で60勝、243セーブ、163ホールド。通算防御率は2・08というのはすさまじい成績です。タイガースの次期監督かという存在にまでなりました。

自分が担当スカウトではなくても本当にうれしかったですね。球児の活躍もありチームが勝ってくれたわけですから。「JFK」の大活躍なくして05年の岡田阪神のリーグ優勝はなかったわけですからね。

解説者としても本当に上手に話しますよね。引退後も野球界に貢献してくれて、メディアでの発信力もある。これからも長く阪神の発展に尽力してくれることを期待しています。

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