ドジャース・大谷翔平投手（３０）を巡り、再びＭＶＰ論争が過熱化している。前人未到の「５４本塁打―５９盗塁」を達成しナ・リーグＭＶＰが本命視されているが、ここにきてメッツのフランシスコ・リンドア内野手（３０）が猛烈な勢いで巻き返し始めた。一時はＭＶＰ争いから完全脱落したかと思われていたものの、ポストシーズンに入って米東海岸を中心にリンドアを推する声が再燃。ただＭＶＰ選考の判断基準に関して曖昧さを指摘する意見も有識者の間から飛び出すなど、場外戦がヒートアップしている。
ここまでの活躍ぶりを振り返れば、２０２４年のナ・リーグＭＶＰは大谷が「大本命」と見て間違いはないだろう。今季は５４本塁打、１３０打点でリーグ２冠を達成。史上初めて「５４―５９」の金字塔も打ち立てると同時にドジャース移籍１年目でこれ以上ないインパクトを残し、チームを地区Ｖ＆ポストシーズン進出へと導いた。
しかしながらナ・リーグ東地区のベースとなっている米東海岸、特にメッツが拠点とするニューヨークのファンやＮＹメディアの考えは大きく異なる。ポストシーズンに入って以降、大谷ではなくリンドアのＭＶＰ受賞を訴える意見が爆発的に強まってきているからだ。リンドアはレギュラーシーズン終盤の９月中旬に腰痛を患い、戦線から一時離脱。大谷と１対１で争っていた「ＭＶＰ議論」も幕引きになったと思われていたが、レギュラーシーズン最終盤から再び有力候補として急浮上してきた。
そのリンドアは９月３０日（日本時間１０月１日）に行われたダブルヘッダー第１試合の敵地ブレーブス戦に「１番・遊撃」で先発出場。〝勝てばワイルドカードシリーズ進出、負ければ敗退〟という運命の一戦で６―７と１点ビハインドの９回に決勝の逆転２ランを放ち、チームをポストシーズン進出へ導く立役者となった。 この日のレギュラーシーズン最終戦を終え、今季は１５２試合出場、打率２割７分３厘、３３本塁打、９１打点、ＯＰＳ・８４４、２９盗塁という好成績もマーク。勝利貢献度を数値化するＷＡＲは７・０で大谷の９・２とだいぶ離れているとはいえ、遊撃手としてＭＬＢ屈指の守備力を誇ることからＮＹメディアの間でも「ＭＶＰの選考材料には、オオタニにはないディフェンシブスタッツも大きく加味されるべきだ」（ニューヨーク・ポスト紙）などと評され〝リンドア推し〟の声が根強いことを印象付けている。
そして極めつけは「ＥＳＰＮ ＬＡ」でドジャース担当を務め、ＢＢＷＡＡ（全米野球記者協会）の一員としてＭＶＰ投票権を持つジャック・ハリス記者が「考えが変わった」とし「オオタニは確かに歴史的な活躍を果たしているが、メディアはチームを劇的な形でワイルドカード進出へと導いたリンドアに投票すべきだ」と自身のＸを通じ、猛アピールしたこと。言わば「身内」であるはずのドジャース担当記者の１人が〝反旗〟を翻したことで、少なからずＭＬＢ関係者や有識者の間にも波紋が広がっているようだ。
加えてポストシーズンでもリンドアはますます「印象度」を高めており、本拠地で８日（同９日）に行われたフィリーズとの地区シリーズ第３戦では８回にダメ押しとなる適時二塁打。さらに９日の第４戦でも１点を追う６回無死満塁から逆転のグランドスラムを本拠地の右中間スタンドへぶっ放し、チームもヒーロー・リンドアの衝撃アーチによって９年ぶりのリーグ優勝決定シリーズ進出を果たした。こうした活躍を受け、メッツファンとともにＮＹの地元紙「デイリー・ニューズ」が「もうナ・リーグのＭＶＰは〝ミスター・スマイル〟（リンドアの愛称）を置いて他にいない」と論ずるなど異様な盛り上がりが一気に加速している。
だが、これら「リンドア推し」の流れに冷静な判断を促す有識者や関係者のほうが大半を占めているようだ。ＭＬＢ関係者の１人は「リーグＭＶＰの選考プロセスは当然ながら当該選手のレギュラーシーズンのみの貢献度や成績で行われるべき。それを基本として考えればオオタニが断然有利であり、ポストシーズンの印象度だけに左右されるべきではない」と投票権を持つＢＢＷＡＡの面々に訴えている。
ＭＶＰの発表は１１月２１日（同２２日）。今のところ大谷の自身３度目となる２年連続の選出が最有力と見られるが、果たしてどうなるのか。