吉野家が10月9日から1週間限定で牛丼を100円引きするキャンペーンを実施し、498円だった並盛が398円となった。私はニッポン放送のラジオ番組でその話題を取り上げ、「やればできるじゃないか。1週間と言わず、ずっとやって欲しい」と発言した。私は消費者として当然のことを言っただけだと思っていたのだが、その後私の発言に非難が殺到した。
「森永は経営のことがまったく分かっていない。そんなことをしたら、吉野家が倒産してしまう」というのだ。
確かに20%の値下げを続けたら、赤字になると思われるかもしれない。しかし、そうでもないのだ。今年2月期の吉野家HDの連結決算(はなまるなどを含む)によると、吉野家の原価率は35%だ。大雑把に言えば、並盛の原価は175円程度ということになる。もちろん原価以外に家賃や電気代などの間接経費がかかるのだが、それらは固定費で、売上に連動しない。細かい計算は省くが、吉野家が値下げで20%売り上げ減になっても、そのことで客数が増えて、実際の減収が7%にとどまれば、赤字転落は避けられる。20%の値下げで16%客数を増やせばよい計算だ。それは、不可能な話ではないだろう。そもそも、牛丼は卵などのトッピングを加えてもワンコイン以下というのが、サラリーマンの懐具合を考えたら、限界価格だ。逆に言えば、それを実現すれば確実に客は戻ってくるのだ。
そういう話をすると、今度は「そうした発想するから現場の賃金が上がらない」という批判が出てくる。しかし、それは間違いだ。賃金は個別企業の経営状況で決まるのではなく、労働市場全体の需給で決まるものだからだ。現に岸田政権のなかで進んだ値上げによる収益拡大のうち、賃金に回されたのは1割未満で、大部分は企業の利益拡大に回っているのだ。
第二次安倍政権が発足して以降、企業の内部留保は2倍以上に膨らみ、いまや600兆円を超えている。それを企業が賃金に回さない以上、労働者の生活を豊かにする唯一の方法は、企業に対して徹底的な値下げを要求することだ。もともと経済学では、完全競争市場の下では企業間競争によって、利益はゼロになると想定されている。だから、消費者は、経営者的な発想で企業の利益を懸念する必要は、まったくないのだ。
いま消費者に求められていることは、1円でも安い商品を選択することだ。消費者がそうした行動をとることが、企業間競争を促進し、我々の暮らしを改善する唯一の方法となるのだ。