さらなる高みを目指して――。2016年にドラフト4位で巨人に入団した元左腕・池田駿氏(31)が異色の道を歩んでいる。現役時代は主にリリーフとして活躍し、21年の引退後は1日合計10時間にも及ぶ猛勉強を1年10か月も続け、合格率7.67%(23年当時)の超難関である公認会計士試験に一発で合格。第2の人生を歩む池田氏は本紙のインタビューに応じ、激動の半生と今後に描く未来を語った。
最初は本当に1日5~10分からの勉強
――社会人野球を経てドラフト4位で巨人入り
池田氏 ドラフトで選ばれた時も(社会人野球で)優勝した時も、小中高大…とたくさんの友達に出会ってきて、そういった方たちからたくさん連絡をもらいました。その時「本当にプロになったんだな」って実感がありました。特にジャイアンツってレジェンド級の活躍をされた選手がたくさんいますので、そういった方と関係を持てたというのは、本当に人生ですごいいい経験になりました。
――今季の巨人はリーグ優勝。阿部監督とはチームメートだった
池田氏 そうですね。もうシンプルに「いや、すごいな」って思います。(阿部監督は)厳しさももちろんある一方で、ちゃんと結果を残した時とか、ちゃんと頑張ってる時にはねぎらいの言葉とかをかけてもらっていたんで。そういう存在ですかね。自分の中では監督というよりかは、一選手としての印象が強いです。
――選手としての阿部監督はどんな感じだった
池田氏 優しくて怖い感じです(笑い)。実は僕、1回試合中にマウンドで怒鳴られた時があって。なかなか自分の思うような投球ができずにへっぴり腰になっていて、タイムがかかって野手が集まる時に一塁に就いていた阿部さんがマウンドに駆け寄ってきて。そんな僕を見て、比喩的な表現ですけど「どんどん相手バッターに当てるぐらい攻めていけよ」ってはっきり言ってくださったんです。表面上はね、物静か…というか、クールな感じに見えるかと思いますけど、結構熱い方だと思います。
――移籍先の楽天では今季で今江監督が退任
池田氏 僕、今江さんめっちゃ好きだったんで。二軍の時のコーチで仲良くさせてもらってたんです。当時は「絶対、いい監督になるだろうな」と思ってたんで、一軍監督就任ってなった時は正直「選手たちいいな…」って思いました(笑い)。
――当時の今江監督の印象は
池田氏 年はそれなりに離れているんですけど、すごい指導者なのにいい意味で気取らないというか。めちゃめちゃ選手目線で、選手の気持ちをすごい分かっているんで、結構思ったことも口にできますし、選手と(距離が)近かったのでとてもやりやすかったですね。
――楽天には20年途中でトレード移籍。当時の心境は
池田氏 正直、僕もジャイアンツで2年目の後半ぐらいから3年目にかけてずっと苦しんでいたので。いい意味で気分転換じゃないですけど、環境も変わって、周りの選手も変わって、球場も変わって…さらにはリーグも変わるんでね。トレードも急に決まったのでびっくりしましたし、大変な気持ちはもちろんあったんですけど、それ以上に新しい人との出会いとか、心機一転というところが大きかった。今思い返してみても、公認会計士の試験合格を目指し始めたのも、楽天に行っていなかったら絶対に目指してなかったんで、これはこれで縁だなと思いました。
――試験勉強を始めようと思った時期は
池田氏 始めたタイミングは移籍して7~8か月、楽天1年目のシーズンが終わった翌年の春季キャンプからです。教材をキャンプに持っていって空き時間に勉強していました。
――野球と勉強を両立させるのは難しかったと思うが
池田氏 僕の大学野球時代の恩師である指導者から、物事を始めたり継続するためのコツをずっと教えられていて。「つ・み・き」って言葉があるんですけど「つ」が「ついでにやる」、「み」が「みんなでやる」、「き」が「記録する」です。これは人生の中でもずっと胸に刻んでやっていることです。
――「つ・み・き」を自分の生活にどう落とし込んだ
池田氏 昨日まで野球しかしてきていない人間が、明日から勉強するっていっても1日2時間とか3時間なんてできるわけがないので。例えば最初の「ついでにやる」っていうのは、歯磨きやご飯とか絶対毎日することのついでに勉強を挟む。僕はご飯を食べる時に、(CPA会計学院から届いた)お試し教材をちょっと見てたりしていて…。最初は本当に1日5分とか10分ぐらいから始めて、生活に徐々になじませていくって感じでした。「みんなでやる」については、1人だと絶対に続かないんで、周りのチームメートに「俺、公認会計士目指すわ」って言っていました。言うとやらざるを得ないので。やらなかったら「お前やるんじゃなかったの?」みたいな感じでツッコまれるんで、そういう環境を自分でつくっていました。
30歳で働いてない「劣等感」乗り越え
――最初に宣言した選手は
池田氏 楽天ではピッチャー陣と仲が良かったので、津留崎(大成)くんとか酒居(知史)とか。同級生には言ってましたね。
――21年シーズン終了後に任意引退してからは勉強漬けの日々
池田氏 そうでしたね。29歳とか30歳になって働いてないっていう時点で、自分の中ですごい劣等感とかありましたし。当時は妻の実家で居候をさせてもらっていたんで「仕事もしてない+お世話」になっている状況で…。妻の両親にもすごく良くしていただいて、勉強のために2階の1部屋を空けてくれて。ありがたい半面、申し訳ないって気持ちがすごいありました。勉強は自分が一生懸命やれば済む話ですけど、環境的な話は自分でどうにかできる話ではなかったので、つらかったですね。
――家族のサポートもあって一発合格
池田氏(合格発表前は)ドラフトより緊張しました。ドラフトはどっちかというと喜びの気持ちがある一方で「やっていけるのかな」っていう不安が相まった複雑な気持ちだったんですけど、(合格発表を見た時は)単純に今まで頑張ってきたことが報われてホッとした気持ちの方が大きかったんで。ドラフトよりはうれしい気持ちの割合が大きかったです。
――合格した翌月からCPA会計学院の講師に。今後の展望は
池田氏 講師として講義や受講生へのサポートもしつつ、正式に公認会計士や税理士になるために監査法人や税理士法人で来年から3年間実務経験を積んでいきたいです。さらには野球選手へのお金に関するサポートや、選手会を通して野球選手のセカンドキャリアに向けての認知活動や支援にも参加したいと考えています。
☆いけだ・しゅん 1992年11月29日生まれ。31歳。新潟県出雲崎町出身。左投げ左打ち。新潟明訓高校で投手として夏の甲子園8強に進出。日米親善高校野球の全日本選抜チームにも選出。専大、ヤマハを経て2016年に巨人からドラフト4位指名を受けて入団。1年目は先発2試合を含む33試合に登板。20年6月に楽天へトレード移籍し、21年シーズン限りで現役引退。23年11月に公認会計士試験に合格。翌12月から「CPA会計学院」の講師として現在活躍中。