女性のがんで最も多いといわれる乳がん。いったいどういう人が乳がんのリスクが高いのか、そして、もし罹患してしまったらどういう治療法があるのか、乳腺外科医の渡海由貴子先生に教えてもらおう。
――乳がんのリスクが高い人はどういう人だといわれていますか
渡海医師(以下、渡海)授乳歴がない人や、閉経後肥満傾向の方、お酒をたくさん飲まれる方、喫煙者の方などはリスクが高いといわれます。あとは遺伝性のものもあり、日本での乳がん患者の約1割が遺伝子の変異に関係しています。
――遺伝ということは、家族の既往歴が重要になってきますね
渡海 そうですね。ご家族に若くして乳がんや卵巣がんなどにかかったという人がいる家系や、男性乳がんがいる家系、前立腺がんがたくさんいるという家系などは、乳がんの遺伝子変異をお持ちの可能性があります。
――胸の大きい小さいは関係ありますか
渡海 ありません。胸の大小よりも、乳腺の密度が高い人は、乳がんの発生する土台の割合が多いということにつながります。ただ、しいて言うならば、大きな人は触ったときに気づきにくいということは考えられます。
――治療法はどういうものがありますか
渡海 大きく分けて3つです。手術、抗がん剤、放射線治療です。手術や放射線治療は局所療法といい、がん細胞がある場所にアプローチし、制御するというイメージです。抗がん剤は薬で全身にアプローチし、体全体にあるがん細胞を攻撃するイメージです。
――乳がんの領域は、新しい治療法がどんどん出てきていると聞いたことがありますが
渡海 まさにその通りで、先ほどの3つ以外にも免疫チェックポイント阻害薬という、細胞の周期を止めることで免疫機能に作用するような薬があったり、遺伝子のタイプごとに薬を選んで治療をすすめたりすることも。選択肢がいろいろありつつ、使い方も人それぞれ。オーダーメードで治療方針を組み立てていきます。
――選択肢が増えるのはうれしいですが、患者側として理解するのが大変そうです…
渡海 去年の常識が今年の常識ではないなんてこともあるくらい、目まぐるしく情報がアップデートされている領域が乳がんです。医師も日々一生懸命勉強しています。治療をすすめるうえで大事なことは「患者さまが納得してくれること」です。乳がんになったとき、1回の説明で理解するのは難しいと思います。疑問点や心配な点があれば遠慮なく主治医に聞いてくださいね。
☆とかい・ゆきこ T・Iクリニック長崎~乳腺外科・婦人科~院長。日本外科学会認定外科専門医、日本乳癌学会認定乳腺専門医。長崎大学医学部を卒業し、長崎大学附属病院乳腺内分泌外科などを経て現職。奇麗な手術と寄り添う診療をモットーとしている。