Infoseek 楽天

アニメ1クール放送中にラバーグッズを量産せよ! 日本国内初のPVCラバー工場に潜入取材

東スポWEB 2024年10月31日 19時5分

長引く円安と地政学リスクによって製造業が“国内回帰”を進めている。今回は流通ウォッチャーの渡辺広明氏と日本初の色挿しPVCラバー工場を見学。圧倒的な低コストの中国工場を相手にして事業を成長させられた理由を探した。

PVC(ポリ塩化ビニル)ラバーは鮮やかな色合いと自由に形をデザインできることから、ストラップやコースターなど多くのアイテムに利用可能な注目の素材。推し活にハマっている人ならアクスタ(=アクリルスタンドの略)同様、一度はどこかで目にしたことがあるだろう。

だが、色挿しPVCラバーの生産はほぼ中国が担っている。圧倒的に低コストだからだ。

2015年に日本国内初のPVCラバー工場を作った株式会社TLT(埼玉県川口市)の挑戦はいばらの道だった。3代目工場長の濱田悟史氏はこう話す。

「ノウハウは一切ありませんでした。他にやっている会社がありませんから、機械や材料も中国のもの。機械さえあれば効率化が図れるのではないかと思っていましたが、想像以上に技術も伴うものだった。5年くらいは中国の工員に来て教わりながらという感じ。今では日本人のスタッフだけで回せるようになりました」

次の課題は国内製造のメリットを明確に打ち出すことだった。PVCラバーの製造にはまずアルミの金型を用意。粉状のPVCに可塑剤と安定剤を入れ、調色した液状のラバーをプログラミングされた機械が流し込み、工員がオーブンで焼成するというのが大まかな作業工程だ。

「調色が強みになりました。キャラクターの指定の色などを中国の工場とやりとりすることになり時間がかかってしまいます。同じ製品を1万個以上作るならコスト面で中国製に太刀打ちできませんが、小ロットなら納期の短さも含めて国内製造を求めるお客様が想像以上に多かった。納期と品質が強みですね」(濱田工場長)

アニメ好きの人には当然の話だが、日本では3か月1クール(12話)でひとつのアニメが放送されている。放映するまではヒットするかどうかが分からず、ヒットしてからグッズ開発では間に合わないしというジレンマが存在し、国内製造はそこに応えられる利点があったのだ。

版権の都合上、写真でお見せすることはできないが、渡辺氏と工場見学をした際にも多数の人気アニメやキャラクター、人気球団やサッカークラブのラバーグッズが製造されていた。

渡辺氏は「たとえばスポーツ選手の背番号が入るようなグッズ。こうした小ロット多品種に対応できる会社が他にないわけだから、当然リピート率も高まります。すると今度は『こんなグッズは作れないか?』と新商品の依頼も飛び込むという好循環が生まれているように見える」と分析した。

実際にTLT社では3年前からアクリルスタンド製造に必要なレーザーカット機やUVインクジェット機なども導入済み。PVCラバーとアクリルを組み合わることでグッズのバリエーションが日々増えているという。ラバーグッズだけでも月間で約60種類、3万個を製造。1000個程度の注文であれば納期はおよそ1か月で済む。

「発注から納品までに要する時間、いわゆるリードタイムをいかに短くするかというのは製造業にとって長年の課題。リードタイムを短縮する最も手っ取り早い方法は在庫を確保することだが、逆に過剰在庫となればコストとなり、トレードオフの関係にあります。最近ではAIなどデジタル技術を駆使して国内サプライチェーン(供給網)の強靱化への取り組みが進められています」(渡辺氏)

経済産業省「2024年版ものづくり白書」では日本の製造業の海外売上比率が20年間で急増したものの、欧米企業に比べると利益率が低水準であることが示された。また、事業や地域が多角化するほど収益性が下がる傾向も指摘されている。だが、裏を返せば最適化に成功すればまだまだ“ものづくり大国”復活のチャンスは残されているということ。頑張れ、日本の製造業!

☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。

この記事の関連ニュース